天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

予防のため血縁に心臓疾患がいるかを確認

順天堂大医学部の天野篤教授
順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 厚労省の「人口動態統計」によると、2014年の死因別死亡総数で、心臓疾患(高血圧性を除く)は19万6925人。これは、死因別死亡数全体の15.5%にあたり、がんに次いで2番目に多い数字です。1985年に脳血管疾患を抜いて死因第2位となり、その後も死亡者数は上昇し続けています。一時は微増しながらも横ばい状態でしたが、近年は再び増えてきました。高齢化が進んでいることが大きな要因です。

 心臓疾患は、60歳を越えてからグッと増え始め、80~89歳で最も多くなります。日本はこれからますます高齢化が進みますから、さらに心臓疾患の患者が増えるのは間違いありません。高齢になってから心臓疾患に見舞われるリスクを下げるためにも、50代のうちから予防策を講じておいた方がいいでしょう。

 そのためにいちばん重要なのは、動脈硬化の進行を抑制することです。動脈硬化は、加齢や生活習慣によって進行し、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離といった心臓疾患の大きな原因になります。

 まずは、自分の両親や祖父母といった近い家族に心臓疾患で亡くなった人や、心臓手術を受けた人がいないかどうかをチェックしてみてください。同胞に2人以上の突然死があるようならば遺伝性の心臓疾患が濃厚なので、動脈硬化予防以前の迅速な対処が必要です。また、両親がともに心臓疾患の人は、そうでない人に比べて2倍も心臓疾患を発症しやすいという研究報告もあります。世代を経るごとに心臓疾患のリスク因子は濃くなっていくと考えていいでしょう。

 もし、血縁に心臓疾患で治療を継続している人がいた場合、次は「その心臓疾患を招いた原因はなんだったのか」を確認します。高血圧だったのか、糖尿病だったのか、高コレステロールだったのか。いずれも動脈硬化を促進して心臓疾患を招きます。

 原因がわかったら、今度は「その原因に対してどんな検査を受ければ経過を観察できるか」を調べましょう。血液検査、レントゲン検査、心臓超音波検査(心エコー)など、自分が抱えているリスク因子を観察するのにいちばん適している検査を探します。さらに、検査を受ける頻度は1年に1回でいいのか、半年で1回にするのかを考えます。検査してもらう担当医と相談してください。そうした信頼性が高い検査を定期的に受けながら、動脈硬化の原因になる症状の進行を遅らせる手だてはないかどうかを考えます。たとえば、高血圧による動脈硬化が原因で起こる心臓疾患なら、血圧を下げておけば進みません。高コレステロールも高血糖も同様です。生活習慣の見直しだけでいいのか、薬を飲んで下げておいた方がいいのか、それぞれ対処法を実施してください。

 さらに次のステップとしては、その対処法で副作用をはじめとした有害事象が起こっていないかどうかをチェックします。たとえば、降圧剤を飲む場合、副作用が出ないかどうかをしっかり確認することが大切です。仮に少しでも副作用があれば薬の種類を替えなければいけません。逆に副作用がないようならその方法を続けます。こうした対策を講じておけば、何もしないで徐々に病気が経過していく人よりも、はるかに病気の進行を防ぐことができます。

 もちろん、検査や投薬を受けるには、それなりの費用がかかります。しかし、心臓疾患は早い段階で対処すればするだけ負担を減らせる病気といえます。高齢になって心臓疾患が発覚し、入院して大がかりな治療を受けなければならない状況になってしまえば、金銭的な負担もはるかに増えてしまうのです。

 一般的な人間ドックを日帰りで受ける費用は7万~10万円程度です。週1回、会社帰りに居酒屋で一杯やって3000円使っている人は、1年間で15万円弱になりますから、週1回の居酒屋通いを1年間だけ回数を半分にガマンすれば、検査費用は賄えます。病気になってしまえば、治療費が数十万円になるケースもあります。自分が高齢になったとき、病気にならないように投資しておくのは、賢い選択といえるでしょう。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。