助かった患者に共通点 大動脈瘤で死なない3つのポイント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 大動脈瘤破裂は、致死率が非常に高い重大病だ。昨年11月に急死した俳優の阿藤快さんの死因も大動脈瘤破裂だったと報じられている。知っておくべきことは何か? 心臓血管外科と循環器内科を中心とした高度専門治療を行う「ニューハート・ワタナベ国際病院」の渡邊剛総長に聞いた。

 大動脈瘤は、動脈硬化で大動脈が硬くなり、コレステロールがたまって血管が瘤のように膨らんだ状態をいう。

 この瘤が大きくなって破裂するのが、大動脈瘤破裂だ。大動脈は心臓から出ている太い血管で、高い圧力で全身に血液を送っている。そのため破裂すると大量出血となり、脳、脊髄、肝臓、腎臓など重要臓器への血流が障害される。破裂した場合の致死率は80~90%にも上るといわれている。

【早期発見には?】

 大動脈瘤破裂で命を落とさないためには、とにかく「破裂を避ける」ことだ。

「大動脈瘤は、いったんできると縮小しません。大きくならないようにするしかない」

 だから早期発見がカギになる。大動脈瘤が神経を圧迫し、声がかすれるなどの症状が出ることはあるが、それはまれで、ほとんどが無症状だ。

「患者さんの多くは、別の検査時に偶発的に大動脈瘤が見つかっています。声がかすれるなど“いつもと違う症状”があれば病院で原因を調べることはもちろん大切です。しかし、他の疾患のリスクも高くなる50歳以降に大動脈瘤破裂が増えることを考えると、健康診断や人間ドックなどの検査を定期的に受けることが、結果的に大動脈瘤の早期発見につながりやすい」

 最適の検査はCTだ。大動脈瘤がある人は、血圧や悪玉コレステロール値が高い人が多い。どちらも高い人は、より注意が求められる。

【発見されたら?】

 大動脈の直径は胸部で約3センチ、腹部で2センチ。

「2倍以上の大きさになると破裂のリスクが高いので手術の対象です。それより小さければ経過観察になります。血圧が上昇すると大動脈瘤が大きくなるので、血圧を120以下に下げながら見ていきます」

 残念ながら大動脈瘤を縮小させる薬はない。

【治療で重要なポイント】

 大動脈瘤の治療には、血管にカテーテル(細い管)を挿入して人工血管を患部に装着する「ステントグラフト内挿術」と、外科手術で人工血管を縫いつけて埋め込む「人工血管置換術」がある。

 後者で、渡邊総長が実施しているのが「体温を32度に保ち手術を行う方法」だ。

「人工血管置換術では、体温を低く下げた方が脳梗塞などの合併症を起こしにくいと考えられ、かつては20度程度、最近では25~28度に保つのが主流です。しかしそこまで体温を低くすると、脳の血管が縮んで脳梗塞を起こしやすいという研究報告があり、最も安全に手術が行える体温として、私は32度に保っているのです」

 32度のグループ23人と、25度のグループ27人で比較した研究では、前者の方が手術時間が2時間以上短く、出血量が少なく、入院期間が短かった。手術の合併症で起こる脳梗塞は、32度のグループは0人だったが、25度では5人いた。

「ただし、32度では30分以内に血管の吻合を終えないと肝臓や腎臓などの臓器にダメージを与える。30分以内に終えようと思ったら、高い技術が要求されるため、なかなか普及していません」

 大がかりな手術だけに「どの治療を、どこで受けるか」も重要事項であることは間違いない。大動脈瘤の治療を受けるなら、少なくとも病院の手術件数と治療成績は事前に調べるべきだ。

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