天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

薬とうまく付き合ってコレステロールを下げる

順天堂大医学部の天野篤教授
順天堂大医学部の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 心臓病を予防するためには、薬とうまく付き合っていくことも重要です。

 薬を飲むに当たって前提になるのは、まず「症状がある」ということです。そして、血液検査の結果に症状を裏付けるデータが出ているかどうかを確認して、そのデータをもとにどんな薬を処方するかを決めるのが一般的です。ほとんどの医師は、「症状」と「生検体(血液や尿など)」で薬を決定しているのです。また、処方した薬が効果的に作用しているかどうかを確認するのも、「症状」と「生検体」です。症状と血液検査のデータを見て、問題になっていた数値がしっかりコントロールされていれば、その薬は合っていると判断できるのです。つまり、薬を飲む人は定期的な血液検査を欠かしてはいけないということになります。

 では、心臓病予防のために中高年男性が最も重視してコントロールしなければならない危険因子は何かというと、「コレステロール」です。いまが働き盛りの40~50代の中高年の血液検査と、現在80~90代の高齢者が働き盛りだった40年ほど前の血液検査の結果を比べてみると、決定的に異なっているのはコレステロール値です。いまが働き盛りの中高年は、食生活や体質を含めてコレステロール、とりわけ悪玉コレステロール(LDL)の数値が高いのです。

 LDLの数値が高いということは、体の中に炎症を起こす“火種”があるということです。その火種が大動脈の中で悪さをすれば、大動脈解離という病気になりますし、冠動脈であれば、急性心筋梗塞を起こします。近年は、大動脈弁でコレステロールの塊がどんどん膨らんで起こる急性の大動脈弁狭窄症が増えています。この3つはいずれも突然死の危険がある病気です。

■働き盛りの突然死を防ぐ

 こうした心血管疾患だけでなく、LDLは脳卒中の原因にもなりますし、大腸がんや乳がんとの因果関係も報告されています。いまの中高年が突然死やがんを予防するためには、LDLを下げる努力が必要なのです。

 そのためには、まず運動が効果的です。しかし、多忙だったり、加齢によって運動量は減っていきます。食事に気を付けることも必要ですが、LDLを上げる食べ物は、活力を生む食べ物というケースが多いといえます。

 となると、働き盛りの中高年男性は、薬でLDLをコントロールするしかありません。定期的に血液検査を受け、LDLの数値が上がっている人はコレステロール降下剤を服用して突然死を起こす心臓病を防ぐ。そして、服用しながら好きなものを食べて活力をアップさせ、バリバリ働けばいいのです。

 コレステロール降下剤には、1970年代に日本の遠藤章医師が発見した「スタチン」という優秀な薬があります。いまは、より効果が高いタイプが何種類も出ています。私もコレステロール値が気になり始めた45歳ごろからスタチンを服用していて、もう15年以上の付き合いになります。

 近年、コレステロール降下剤の重篤な副作用をクローズアップした意見が散見されます。たしかに、筋肉痛や関節痛などの副作用は起こります。しかし、筋萎縮や横紋筋融解症などの重篤な副作用は、処方した医師の管理不行き届きです。信頼できる医師のもとで定期的に血液検査を受けながら服用すれば、いたずらに怖がる必要はありません。宝くじで1億円が当たるのと同じようなまれな事象を、誰にでも起こり得ることのように考えて避けるのは間違っているといえます。

 そうはいっても、確率がゼロではないのだから不安だという心情もわかります。しかし、極めてまれなケースに怯えて何もしないよりも、きちんと管理しながら服用することで得られるメリットの方が格段に大きいといえます。

 私は、筋肉痛などの副作用が表れたらいったん服用を中止し、何度か休んでからまた飲み始めるようにしています。もちろん、定期的な検査によるチェックは欠かしません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。