余命3カ月の元米大統領救った悪性脳腫瘍の最新治療法とは

 俳優の松方弘樹(73)が脳腫瘍(脳リンパ腫)と聞いて、ショックを受けた人も多いのではないか。脳腫瘍は一般的に「治りにくい深刻な病気」というイメージがあるから無理もない。しかし、最近は新たな免疫療法と放射線による治療で、悪性脳腫瘍が劇的に治るケースが報告されている。

 悪性脳腫瘍患者の希望の星といえば、昨年末、自身の脳腫瘍が完治したと発表したジミー・カーター元米大統領(91)だろう。昨年、肝臓がんが見つかり手術を受けたが、8月には脳内4カ所に悪性脳腫瘍が見つかった。ところが、昨年末に受けたMRI(磁気共鳴画像装置)検査では、脳内の腫瘍はすべて消えたという。最新のがん治療に詳しい千葉ポートメディカルクリニック(千葉市美浜区)の今村貴樹院長が言う。

「カーター氏を救ったのは、コンピューターを用いて正常な脳組織を傷つけずに放射線を正確に腫瘍に照射する『定位放射線療法』と、抗PD-1抗体による『新たな免疫療法』といわれています」

 そもそも脳腫瘍とは脳とそれを取り巻く組織にできる腫瘍の総称で、脳組織から発生する「原発性脳腫瘍」と、肺や乳房など他の臓器から脳に転移してきた「転移性脳腫瘍」の2つに分かれる。

 原発性には「良性」と「悪性」があり、「良性」は周囲の組織との境界が明瞭で増大スピードが遅く、手術での全摘が可能。反対に「悪性」は手術での完全摘出が難しく、多くの場合、手術後に放射線治療や抗がん剤治療が行われる。

 カーター氏は「転移性脳腫瘍」で、数年前に致死性の特に高いメラノーマ(悪性黒色腫)から派生した。以前なら余命3~4カ月と宣告される深刻なレベルだったらしい。東京新宿メディカルセンター放射線治療科の黒崎弘正部長が言う。

「転移性脳腫瘍の治療には放射線治療が特に有効で、以前から全脳照射が行われていましたが、3センチ以内の腫瘍なら定位放射線治療、いわゆるピンポイント照射が優先されるようになってきました。カーター氏の場合は、主要患部を定位放射線治療したのち、抗PD-1抗体による免疫療法を使ったのではないか」

■気になる薬代は年間数百万円

 カーター氏が使ったのは「キートルーダ」と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤。日本では未承認だが、米国ではメラノーマ以外にも腎がん、肺がんを対象に承認されている。

 実はこのチェックポイント阻害剤は、「原発性脳腫瘍」にも効果がある可能性があるという。

「膠芽腫は最も悪性度が高く、頭蓋骨内腫瘍の10%と頻度の高い原発性脳腫瘍です。大脳に発生して周囲の脳細胞に染み込むように広がり、5年生存率は10%で平均寿命は1年半といわれています。標準治療は開頭手術で可能な限り腫瘍を取り出し、放射線治療とテモゾロマイドと呼ばれる抗がん剤治療ですが、欧米ではチェックポイント阻害剤により、腫瘍の縮小が見られると報告されています」(今村院長)

 実際、「千葉ポートメディカルクリニック」では、60代の膠芽腫の男性患者にチェックポイント阻害剤を投与したところ、腫瘍が縮小し延命に成功したという。

 ちなみに、免疫チェックポイント阻害剤は従来のがん細胞への攻撃力を強めるのでなく、がん攻撃のブレーキを外す薬。そのため効力に比べて副作用が低い。問題は薬剤費が年間、数百万円以上かかる点だが、脳腫瘍の治療に新たな治療法が登場したことは心強い。

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