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【心房細動の治療】慶応義塾大学病院・循環器内科(東京都新宿区)

慶應義塾大学病院の高月誠司准教授
慶應義塾大学病院の高月誠司准教授(C)日刊ゲンダイ
3泊4日の「アブレーション」で根治を目指す

 脈拍が増えたり減ったり、不規則に打ったりする「不整脈」。そのひとつに心臓の上半分の部屋(心房)が速く、小刻みに震えてしまう「心房細動」がある。ただちに死に至ることはないが、放置していると心不全や脳梗塞のリスクが高まる。

 同科は、その心房細動の根治を目指すカテーテル・アブレーション治療(心筋焼灼術)を積極的に行っている。不整脈専門チームを率いる高月誠司准教授が言う。

「心房細動は60代から加齢に伴って発症頻度が高まり、国内患者は140万人以上と推定されています。心房細動がある人は、ない人に比べて心不全は3倍、脳梗塞は5倍、発症リスクが高まるといわれています」

 心房細動には、ときどき起こる「発作性」、1週間以上持続する「持続性」、1年以上続く「長期持続性」がある。心拍が速く、不規則に乱れるので、動悸や胸の不快感などの症状が出る。心臓のポンプ機能も20%低下するため、心臓の働きが悪い人では息切れやむくみが表れることもある。ただし、心房細動があっても半数の人は、これらの症状を自覚しないという。

「症状のある人は受診のきっかけになるのでまだいい。心房細動が起こると血液がよどみやすくなり、心房内に血栓ができやすくなります。その血栓が脳へ飛んで動脈を詰まらせると、突然、脳梗塞を引き起こす危険性があるのです」

 そのため、年1、2回は心電図検査を受けることが大切。心房細動が起きているときでないと心電図に異常は示されないが、発作性から持続性に移行すると発見される確率は高いという。

■早く受けるほど治療成績がいい

 心房細動は、心臓を動かしている電気の発生場所とは違う場所(主に肺静脈)に、異常な電気が発生して起こる。治療は第1選択肢として薬物療法があるが、薬を一生飲み続けなければいけない。内科的治療で根治が期待できるのは、ここ10年で急速に進歩しているアブレーション治療だ。

 首と太ももの付け根の血管から、先端に電極のついたカテーテル(細い管)を挿入して心臓まで進め、高周波電流で異常な電気の発生場所を焼く。1回に平均20カ所前後焼いて、治療時間は正味2時間半。入院は3泊4日だ。

「アブレーション治療の対象は発症から5年以内で、仕事をもつ70歳くらいまでの人、症状が強く出る人、脳梗塞のリスクが高い人などを中心に積極的に行っています。1回の治療で心房細動がなくなる確率は、発作性なら80%。持続性でも90%以上は発作性に改善します。心房細動が完治する全体の成功率は70%ほどです」

 同科は、心臓を3次元的に描写できる3Dマッピングシステムを組み合わせたアブレーション治療をいち早く始めた草分け的施設で、治療中のレントゲン透視時間も最小限に抑えている。

「一昨年に保険適用になった冷凍アブレーション治療も発作性を対象に行っています。これはカテーテルについた小さな風船を使って異常部位を凍結させて治す術式で、広範囲に治療できるので治療時間(1時間半~2時間)が短くて済みます」

 アブレーション治療は早く受けるほど治療成績がいい。望むなら早めに検討しよう。

 1920年開院の慶応義塾大学医学部の病院。
◆スタッフ数=医師21人(助教以上)
◆年間初診患者数=1200人(うち心房細動患者の割合=約20%)
◆心房細動のアブレーション治療実施数=年間約260件