独白 愉快な“病人”たち

エッセイスト・スエノブ由美子さん(48)子宮がん

エッセイスト・スエノブ由美子さん
エッセイスト・スエノブ由美子さん(C)日刊ゲンダイ
CT検査で腹水が膀胱を圧迫、さらに子宮がんが見つかった

 結婚2年目の5月、41歳の時のことです。友人とのカリフォルニア旅行中、1週間の滞在の間、ずっと体がだるく何もできなかったんです。何度も何度も尿意を催すけれど出ない。

 しかも、血尿も出て。自宅のあるハワイに戻って病院に行くと、膀胱炎と診断されました。

 ところが薬を飲んでも治らない。初診で何も検査をせず膀胱炎と診断されたので、再診の際にCTを撮って欲しいと頼みました。

 検査を受けると、腹水がたまって膀胱を圧迫していたことが判明。

 さらに子宮がんが見つかり、専門医の細胞診で悪性と判明しました。

 医師は、「転移がないから切除すれば大丈夫」と言ってくれましたが、術後の抗がん剤治療で長い髪を失うことの方が問題。

 通訳をしてくれる主人に、「ねえ、『髪が抜けるの?』って聞いて!」って何度も言いました。私の趣味はフラダンスで、腰までの髪は私の財産。髪がないんじゃフラもできないと思ったんです。

 ドクターは、脱毛も否定できないという返事。主人に「髪よりも生きていくことが大事だよ」と諭され、2週間後に手術することにしました。

 ちょうど保護犬のロキシーを迎え入れたころでした。

 前から犬を飼う相談をしていて、主人は元気になってからにしようという意見でしたが、取りあえず保健所に見にいくことにしたんです。

 すると、黒い犬がルンルンして入ってくる。

 私は細胞診後で体に力も入らない状態だったのですが、それを察して、私のところでは黙って寄り添うだけ。主人に対してはボールをくわえて「遊んで! 遊んで!」と、1歳3カ月の子供らしいしぐさをしたんです。もう、私たちはロキシーに一目ボレ。即決で、飼うために必要なものを買いに走り、4時間後には彼を車に乗せて帰宅しました。

 手術は問題なく終わり、テニスボールほどの腫瘍を摘出。ハワイでは3日後には病院を出されてしまい、トイレでパンツを下ろすのも自分でできないほど苦労しました。友達が代わる代わる来てくれて、何とかなりました。

■愛犬のおかげで抗がん剤治療に耐えられた

 抗がん剤治療が始まると、2クール目には髪が抜け始めたので、潔く髪を切ろうと決めました。ハワイには私のような病気の人を受け入れる美容院があり、そこで、ボブにしたりモヒカンにしたり、ひと通り髪で遊んで、最後に坊主に。涙の断髪を想像していたのですが、写真を撮り、笑いながら、涙を流すことなく坊主にしました。

 ハワイの人はおおらかで、私の坊主頭も個性として認めてくれ、坊主のままフラダンスのスクールに通えました。髪が生え始めると「その髪はナチュラルなの? すてきね!」と縮れ毛も褒めてくれる。自分に自信もつき、一度もカツラを使わずに過ごせました。

 抗がん剤治療は3週に2回を8クール。抗がん剤治療中は常に吐き気があり、体はしびれて眠れない、何を食べていいのかもわからない。そんな中、ロキシーは体調の悪い時は黙ってそばに寄り添い、元気な時は一緒に遊んでくれました。おかげでずっと鬱々とせずに過ごせました。

 手術から5年、ようやく寛解に入りました。アメリカの医療費は相当高いと聞きますが、主人は私に心配させないよう、費用の話は一切しません。私も彼の気持ちに感謝して聞かないことにしています。今、ロキシーは“セラピードッグ”として活動しています。私のつらい時期を救ってくれたように、ロキシーを通して、少しでも多くの人に癒やしを与えられたらと思っています。

▽すえのぶ・ゆみこ 1968年、東京都生まれ。メーカーで事務職として勤務中、旅行で訪れたハワイで高校教師の日系3世、アンドリュー・スエノブ氏と出会い07年に結婚、ハワイへ移住。闘病の時期に支えてくれた愛犬ロキシーについてつづった「ロキシー~奇跡のハワイアンセラピードッグ~」(ぴあ)を上梓。