病院は本日も大騒ぎ

避難場所に居場所なし 被災地で悪化する高齢者の認知症

(C)日刊ゲンダイ

 こんにちは! 看護師資格を得て30年。現在は関東圏の総合病院に勤務している看護師のトモヨです。

 熊本・大分の大地震に心を痛めていますが、私の看護師仲間の中にも両県出身者がいます。幸い、軽いケガはあっても肉親・知人で命に別条があった人はいなかったようです。ただ、熊本出身の友人Aさん(53)は「遠からず、実家に帰って母の面倒を見なければならないかも」と深刻な顔をしています。

 というのも、この友人は福島県内の病院に勤務していたことがあり、東日本大震災直後に多くの高齢者が認知症を悪化させていたことを知っていたからです。

「被災地では皆が自分のことで精いっぱい。高齢者の、特に女性は避難場所のわきに追いやられ、発言する機会はほとんどないの。ただでさえ、大地震で精神的ストレスがかかっているのに慣れない避難場所での生活で大抵の老人はおかしくなる。自宅で過ごす人も余震の恐怖と一人でいる恐ろしさから認知症がひどくなった人の話を聞いたわ。よく、肉親の死がわからず、亡くなった人の名前を呼び続ける話を聞くけど、地震自体を覚えていないというお年寄りもいたわ」

 Aさんはこう言い、熊本で一人暮らしの80代の母親を心配しておられました。

 医療関係者の間では大地震後に認知症の症状が悪化することが知られています。例えば、新潟県中越地震後の調査では、地震発生後1週間以内に認知症患者の43%に症状の変化があったそうです。しかも、軽度の認知症だった人の方が、症状が悪化することが多かったそうです。東日本大震災でも同様な報告がありました。

 通常、災害を受けた人は4つの心のプロセスをたどるといわれています。まずは、災害発生直後の「英雄期」。家族や近所の人の命や財産を守るために、危険をかえりみない勇気ある行動を取る時期です。震災後1週間~半年は「ハネムーン期」で、激烈な体験をした被災者同士が強い連帯感で結ばれます。震災後2カ月~1、2年は「幻滅期」で被災者の忍耐が限界に達してケンカやトラブル、飲酒などの問題が起き、地域の連帯感や共感が失われます。そして被災地に「日常」が戻る「再建期」が訪れるのは数年後といわれています。

 こうしたプロセスに関係なく高齢者は、震災で心に大きな傷を負ったまま、うつうつと過ごすのです。都会でテレビニュースを見ていると「建物等の物的被害が多い割に人的被害が少ない」と胸をなでおろしている人もいるでしょう。しかし、今回の震災で大きな精神的被害を受けた高齢者のために払う犠牲は、大きく、その期間は長期にならざるを得ません。そのことを都市生活者は覚悟しておかなくてはなりません。