人工関節で完治も “3Dプリンター”で膝痛とオサラバする

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右写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 変形性膝関節症の治療が劇的に進化している。関節の疾患を専門にしている「苑田会人工関節センター病院」(東京・足立区)の杉本和隆病院長に聞いた。

 変形性膝関節症の症状は、膝の痛みだ。太ももの骨、すねの骨、膝の皿で構成される膝関節は軟骨で覆われている。この軟骨が加齢などですり減り変形すると、「膝関節にかかる衝撃を和らげる」という役割を十分に果たせない。そのため、太ももの骨とすねの骨がもろにぶつかり合い、痛みが出る。

「自覚症状を有する患者が1000万人、潜在的な患者(無自覚だがエックス線診断による患者数)は3000万人といわれています。今はジョギングブームです。ジョギングは膝に負荷をかけますから、10年後には患者が増加していると考えています」

 変形性膝関節症は、初期、中期、末期と進行していく。初期は、立ち上がった時や階段を下りる時に膝が痛い。中期では正座ができない。末期になるとO脚になり、膝をまっすぐ伸ばせなくなる。

「薬や注射、リハビリ、トレーニングなど、何をしても痛みが取れない場合、手術が検討されます」

 手術法として主流なのが、軟骨や痛んだ膝関節を取り除き「人工膝関節」に置き換える人工膝関節置換術。近年、注目されているのが、3Dプリンターを用いた手法だ。2013年に承認された。

■患者にぴったりの“型”を立体的に作製

「手術前にCTやMRIで脚全体の骨の画像を撮り、3Dプリンターを使って特殊な素材の膝関節モデル(写真下)を立体的に作製します。患者さんの膝にぴったり合ったそのモデルを、手術で膝の中に当てはめ、その形に応じて骨を切除していきます」

 その後で人工関節を埋め込むのだ。

 従来の方法では、手術時にさまざまな道具を用いて「どれくらい骨を削ればいいか」「どの角度で人工関節を埋め込めばいいか」を、医者の経験を加味して決めてきた。

 そのため、削り幅や人工関節を埋め込む角度にズレが生じやすく、医者の経験値によっても左右された。加えて、手術中に検討されることが多いので、手術時間が長くなりやすい。結果的に出血量が増え、術後の後遺症のリスクが高くなり、患者への負担が大きかった。

「最も問題なのは、人工膝関節置換術を受けたのに痛みが取れない人、再置換手術を受けなければならない人が出てくることでした。3Dプリンターはこれらの問題を解決できたのです」

 手術前に患者それぞれの立体的なモデルを作って入念なプランニングができるので、医者の経験値を補助し、安全で的確な手術が行える。入院期間は個人差があり数週間となるが、手術翌日から歩行訓練ができ、「手術したことを忘れてしまった」と話す患者が多いという。

 せっかくの技術進歩を生かすには、変形性膝関節症についての誤った認識を改めたい。前出の「末期」症状で、どんな手を打っても痛みが解消されないようなら、「そのうち良くなるかもしれない」と考えるのはやめるべきだという。

「残念ながら、膝関節は元には戻らない。損傷が進むほど治療は大掛かりになり、術後の状態にも制限が出る。適切な診断を受け、適切な時期に、手術を考えたほうがいいと思います」

 また、人工膝関節は複数のメーカーから出ており、30近く種類がある。膝軟骨の状態に応じて選べば、術後の快適な生活につながる。人工膝関節について選択肢を提示してくれる医療機関を選んだほうがいい。

 3Dプリンターを使った手法を取り入れる医療機関は増えている。まずは、それを探すところから始めるのもいい。

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