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【腹部ヘルニア】聖路加国際病院・ヘルニアセンター(東京都築地)

左は聖路加国際病院・ヘルニアセンター(東京都築地)の柵瀨信太郎センター長(日本ヘルニア学会理事長)
左は聖路加国際病院・ヘルニアセンター(東京都築地)の柵瀨信太郎センター長(日本ヘルニア学会理事長)(C)提供写真
脱腸手術の駆け込み寺

「ヘルニア」といえば腰の病気と思われがちだが、それは間違いだ。部位に関係なく、体の組織があるべき位置から脱出した状態を指す。同センターは、腹部の筋膜の一部が弱くなり、腸などの臓器が外に押し出された成人の「腹壁ヘルニア(俗称・脱腸)」の専門の診療部門。柵瀨信太郎センター長(日本ヘルニア学会理事長=写真)が言う。

「腹壁ヘルニアの治療法は手術しかなく、一般外科の中で最も多く手術が行われる病気です。ところが、難易度の高い手術に慣れた施設は意外に少ない。当センターは、他院で治療困難とされた患者さんも積極的に受け入れており、初診の半数以上は紹介患者さんです。特に腹壁瘢痕ヘルニアは紹介が多く、腹腔鏡手術も多数行っています」

 難しい症例に対応するには、豊富な実績と熟練度の高い医師が必要だ。同院は総合病院なので他科の専門医との連携も可能。鼠径部ヘルニアは、ベテラン麻酔科医の管理下で行う侵襲性の低い局所麻酔などにより、持病がある患者にも手術が行える。

 腹壁ヘルニアには、太ももの付け根周辺に膨らみが現れる「鼠径部ヘルニア」(3種類ある)、腹部の手術後の傷痕に起こる「瘢痕ヘルニア」「臍ヘルニア(出べそ)」などがある。

「ヘルニアは立ったり、腹圧がかかると飛び出します。このとき、鈍痛や違和感などがある場合もあれば、無症状の場合もある。この時点では緊急を要しませんが、経過観察していても鈍痛の悪化によって手術が必要になる可能性は毎年10%ずつ高まります」

■原腔鏡では再発率0%

 頻度は低いが、ヘルニアの穴に腸管などが入り込んだまま戻らなくなる「嵌頓」の状態になると腸閉塞や腸管壊死が起き、緊急手術が必要となる。

「ですから、全身状態に問題がないうちに自分の都合に合わせて治すことをお勧めします。重い持病のある高齢者で無症状の場合には、手術せずに経過観察することも許されますが、嵌頓時の状態、対応をよく理解しておくことが大切です」

 手術法には、鼠径部を切開する手術と腹腔鏡手術がある。どちらも筋膜の弱くなっている部分をメッシュ(人工膜)を使って修復する。手術法の選択はヘルニアの病態や患者の体の状態、希望などを考慮した上、「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン」に沿って決定される。同センターでの入院期間は平均2泊3日だ。

「鼠径部切開法は、誰にでも適応できるスタンダードな術式です。腹腔鏡は腹部内部から広く観察できるので複雑な病態にも対応できて、術後の痛みが少ないのがメリットです」

 執刀医の熟練度は再発率にも反映する。日本内視鏡外科学会による調査では(2012~13年)、再発率は、鼠径部切開法で平均1~1.6%、腹腔鏡で平均4~5%とされる。同センターでは、切開法0.5%以下、腹腔鏡では0%だという。

「別の病気をお持ちの患者さんは初診時に治療歴、お薬手帳など医師が全身状態を正確に判定できる資料を持参していただくことが大切です」

■データ
1902年に米国聖公会宣教医師により設立。現在の事業主体は学校法人聖路加国際大学。
◆スタッフ数=医師2人
◆年間初診患者数(2015年度)=286人
◆年間手術件数=鼠径部ヘルニア約200例(うち2割が両側同時手術例)、瘢痕ヘルニア約25例、その他約20例