病気に潜む「脳の異常」

慢性腰痛<3> 腰より脳の治療を 鎮痛システムの改善も必要

脳で腰痛が治る?
脳で腰痛が治る?(C)日刊ゲンダイ

 脳で腰痛が治る──。ウソのような話だが本当だ。それは、福島県立医科大学整形外科チームが行う「リエゾン診療」の成功からも明らかだ。整形外科医だけでなく、心身医療科の精神科医、臨床心理士、リハビリの専門家、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーらが一体となって慢性腰痛の治療を行う診療方法だ。

 ある30代の女性は、10カ所の医療機関を渡り歩いた末、「リエゾン診療」にたどりつき普通の生活を取り戻した。彼女は高校生のときに椎間板ヘルニアの手術を受けてから慢性腰痛に苦しみ、車いすなしでは移動できなかった。

 同じ30代の男性は腰痛の原因がわからず、いくつもの病院を転々としていた中で「リエゾン診療」と出合い、完治したという。

 いずれも、どんな状況でどう認知し、どう行動したかをつづった「ストレス日記」が治療の糸口になった。「自分の考えを言えずに我慢していたことがストレスとなり、腰痛につながった」ことがわかり、それを修正することで治療が進んだのだ。福島県立医科大学医学部整形外科学講座の大谷晃司教授が言う。

「プライマリーケア受診の腰痛患者さんの85%は、画像検査では腰痛の原因が特定できない。いわば原因不明です。それでも、大多数の腰痛患者さんは1~3カ月で痛みは軽減します。しかし、それ以上の期間痛みが続く人は、治療が必要なほど脳にストレスがかかっている可能性があるのです」

 腰痛において、腰は単に「ここの具合が悪い」という情報を伝えるにすぎない。痛みを感じているのは脳だ。腰痛を治そうとするなら、脳の中でどのように痛みが生み出されていくかを知らなければならない。

「皮膚や内臓、骨などが傷ついたときの刺激を、末端神経先端の侵害受容体と呼ばれるセンサーが感知し、その情報が中枢神経から脳に伝わり、痛みに置き換わります。さらに、ダメージを受けた細胞から痛み物質が分泌され、それが神経の表面に付着することで電気信号が脳に向けて発せられ、脳が痛みと感じるのです」(大谷教授)

 こうした痛みは、社会的な状況によっても変わってくるから複雑だ。例えば同程度の痛みでも「この先は戦闘に参加せず、命を永らえる」と感じている兵士と「痛みが死ぬまで続くかもしれない」と考える一般患者とでは、痛み止めのモルヒネを希望する割合が違うという。

「痛みを考える場合、脳が痛みや苦痛を感じたときに働く鎮痛作用にも目を向ける必要があります。例えば、脳内モルヒネ(βエンドルフィンやエンケファリンなどの神経伝達物質)、痛み情報の伝わり方を抑えるためにノルアドレナリンやセロトニンを放出する下行性疼痛抑制系の仕組み、脳内モルヒネ分泌を促すことで痛みをコントロールするドーパミンシステムです」

 腰痛治療は、単に腰の器質異常を治すだけでなく、脳ストレスを減らして痛みを生み出さないようにしたうえで、脳の鎮痛システムの機能低下解消まで気を配る必要がある。