独白 愉快な“病人”たち

「言葉が出ない…」 髙山善廣さんが脳梗塞体験を語る

髙山善廣さんは俳優としても活躍
髙山善廣さんは俳優としても活躍(C)日刊ゲンダイ

 脳梗塞を経験するまでは、「何があっても俺は大丈夫だ」とタカをくくっていました。でも、やっぱり俺でも、何かあれば大丈夫じゃないんだなと思いましたね(笑い)。

 倒れたのは2004年8月8日、大阪府立体育会館での試合後のバックヤードでした。試合には勝ったのですが、試合後のインタビューで言葉がうまく出てこなかったのが悔しくて、「今日はしゃべりがイケてなかった……」と落ち込んでいたんです。

 その後、差し出された懸賞金を受け取ろうとして右手を出したら落としてしまった。で、拾ってもらった懸賞金を左手で受け取って、右手でドアを開けようとしたら、今度はドアノブがつかめない。誰かが開けてくれたドアから出て、そこにあった長椅子に座ったら、体がだんだん横に倒れていくんです。

 さらに、しゃべろうとしても、ろれつが回らない。日頃からそういう“ドッキリ”をよくやるタイプだったので、初めはみんな冗談だと思ったようです。でも、そのうちに医療班が飛んできて、救急搬送されました。

 担架に乗せられてからものの数分で病院に着いたので、“こんなに早く着くはずがない。いよいよ頭もおかしくなった”と思いました。でも、運びこまれた富永病院は、大阪府立体育会館とは目と鼻の先。しかも、運のいいことに国内トップレベルの脳神経外科で有名な病院だったんです。

 その後のこともよく覚えています。まず、血栓融解剤を点滴されて、頚椎のMRI検査をしました。筒状の検査器に吸い込まれながら、“火葬されるときってこんな感じなのかな”と思ったくらい冷静でした。検査後は、医師に「頚椎の損傷はないけれど、脳の血管が詰まっているので脚の付け根からカテーテルを入れ、詰まった血管を広げる手術をします」と言われました。

 運ばれるストレッチャーの上では、心配する関係者に右手でVサインを出したのですが、そのときはもう手だけではなく右半身が麻痺していた。手術室でモニターに映る自分の頭の中を見つつ、麻酔が効いて意識が遠くなっていきました。

「終わりましたよ」と起こされて、手術室から出ると心配そうな関係者の顔が見えました。“大丈夫”の合図のつもりで無意識に右手を上げたら、みんなが歓声を上げたのも覚えています。倒れてからわずか2時間での手術完了。3時間以内なら後遺症は最小限に抑えられるとあって、医師からは「強運ですね」と言われました。

 今から思えば、前兆はたくさんあったんです。倒れる1カ月前の試合で急に右足がカラ足を踏んだような感覚になったり、別の時には動悸もありました。でも、すぐに治るんです。それから、妙に日差しがまぶしくて、目の奥がチリチリしていました。当時、オゾン層の破壊が話題になっていたので、そのせいだろうなんて考えていたんですが、破壊されかけていたのは自分でした(笑い)。

 入院は1週間。すぐに試合復帰できると思いましたが、右半身の麻痺はなかなかの“ツワモノ”で、結局、復帰までに約2年かかりました。その間、いろいろな方からアドバイスをもらって、体質改善から体力づくりまでじっくり取り組みました。

 まずは水を1日に4~6リットル飲むようになりました。昭和のスポーツマンなので(笑い)、それまでは運動している時も水はほとんど飲まなかった。結果、血が濃くなっていたようです。コーヒー好きなので、水分はもっぱらコーヒーで摂取していました。でも、コーヒーは利尿作用があるので、水分補給にはあまり適していないと教わりました。

 さらに、大きく変えたのは食生活です。今は牛肉と豚肉はまったく食べません。そもそも、日本で牛肉や豚肉が庶民の食卓に並ぶようになったのは戦後のこと。日本人の体をつくってきたのは鶏肉や魚や野菜なんだ……と教わって納得したんです。たしかに、牛肉と豚肉をやめた当時は目覚めがよくなり、血がキレイになっていく実感がありました。今はもう、それが普通になりましたけど。

 若い頃は40歳を越えたらリタイアしようと考えていましたが、カムバックしてからは意識が変わりました。「まだやれるのに引退するのは失礼だ」と思うようになったんです。これは、同じレスラーである小橋建太氏が、がんで引退を余儀なくされたことも大きく影響しています。だから、やれるうちはやりますよ。右足はいまだに感覚が鈍くて、できなくなった技もあります。でも、自分より強いやつはなかなかいないんで大丈夫です(笑い)。

▽たかやま・よしひろ 1966年、東京都生まれ。大学卒業後、1992年、「UWFインター」でデビュー。「キングダム」「全日本プロレス」を経て、2001年にフリーとなってさまざまな団体のマットに上がり、2009年には日本のメジャー団体のヘビー級シングル王座、タッグ王座をすべて手に入れる。近年は俳優としても活躍の場を広げている。