有名病院 この診療科のイチ押し治療

【スポーツ外来】外傷から歯を守るマウスガードを製作

松本勝准教授
松本勝准教授(C)日刊ゲンダイ
明海大学歯学部付属明海大学病院・口腔保険科(埼玉県板戸市)

 同科は、虫歯・歯周病を未然に防ぐ“予防歯科”や、他科で治療した患者の“メンテナンス”を担当する。その中に併設されているのが「スポーツ歯科外来」だ。担当する松本勝准教授(社会健康科学講座スポーツ歯学分野=顔写真)が言う。

「スポーツによって発生した歯の破折や脱臼(抜けた状態)、顎の骨の骨折などの治療は、本来の診療科である保存修復科や口腔外科が行います。当外来の役割は、それらのスポーツ外傷から歯や歯周組織を守るための『マウスガード(MG)』を製作し、提供することにあります」

 MGは、呼び名が違うだけでボクシング選手が試合時に歯にはめている「マウスピース」と同じもの。他にもMGの装着が義務化されているスポーツ競技は多く、アメリカンフットボール、キックボクシング、総合格闘技は完全義務化。アイスホッケー、インライン(ローラー)ホッケー、空手、ラクロス、ラグビーは一部義務化されている。

「研究分析によれば、MG装着者と比べて、MGを着けていない人のスポーツ・運動中の外傷発生リスクは、全体として1.6~1.9倍高いことが分かっています。ですから、装着が義務化されていない競技でも、野球でボールが当たったり、モトクロスやスキーなどで転倒して、一度ケガを経験したので欲しいという人もいます」

 また、顎の嚢胞の治療で骨を削ったため骨が薄くなってしまい、念のために防具としてMGを使いたいというスポーツ選手もいるという。

 歯や口の中の外傷だけでなく、顎から伝わる脳への衝撃のダメージを減らしたり、競技中に歯を強く噛みしめることによる顎関節の障害の予防にもなる。また、顎の位置が安定するので、頭や首、腰の位置が適正に保たれ、体のバランスが良くなるメリットもあるという。

「ただし、MGには市販製品もあり、適合性や維持力、装着感に問題があるものは逆効果になりかねません。すべての歯科施設がMGを製作できるわけではないので、当大学は埼玉県歯科医師会と協力して、MGを扱える歯科医師、歯科技工士を増やそうと講座などを開いています」

 スポーツ用品店などで売られている既製品は合成ゴム製が多く、お湯で軟らかくして自分の歯型に合わせるようなタイプ。

 一方、歯科で作るMGは一人一人の歯型を取り、EVA材(ポリエチレンとポリ酢酸ビニールを混合した樹脂)を使って作るカスタムメードMGだ。個々の歯型に合わせて、噛み合わせのバランスを細かく微調整するところに技術を要するという。

「MGは基本的に上顎歯列に着けますが、下顎が出ている受け口では下顎歯列用を作る場合もあります。完成するのは歯型を取ってから1~2週間ほどです」

 MG製作は自由診療(自費)で、同外来の場合はすべての診療を含めて1個5000円(税別)。厚さを部分的に2枚重ねにする場合には、倍くらいの費用になる。耐久年数は、材料的には長くても1年が限界だが、噛みぐせや保管状態などが影響するため、半年に1回のチェックが必要という。