Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

胆のうがんの渡瀬恒彦さん 第一選択の手術を受けない事情

渡瀬恒彦さんは主演ドラマ最新作撮影を降板
渡瀬恒彦さんは主演ドラマ最新作撮影を降板(提供写真)

 西村京太郎サスペンスの十津川警部といえば、この人でしょう。俳優・渡瀬恒彦さん(72)で、これまでに54作品で演じてきたそうです。そんな名役者が、胆のうがんの治療を優先し、最新作の撮影を降板したと報じられています。

「女性セブン」によると、胆のうがんが見つかったのは昨年秋ごろ。久しぶりの長期休暇を利用して、都内の総合病院で詳細な健康診断を受けたところ、胆のうに腫瘍が見つかったようです。

 胆のうは、肝臓でつくられた消化液の胆汁を一時的に蓄える臓器で、食後に胆汁を十二指腸に流して消化をサポートしています。

 胆のうがんの初期は自覚症状がありません。別の臓器を調べるための腹部超音波検査でたまたま見つかるケースがほとんどです。渡瀬さんも、健診が功を奏したといえるでしょう。

 治療は、手術で胆のうを摘出するのが第一。進行具合によっては、リンパ節や肝臓の一部、胃や十二指腸、すい臓など周りの臓器も摘出することがあります。

■早期なら5年生存率63%

 胆のうのみを摘出するステージ1でも、5年生存率は63%。ほかの臓器に転移するステージ4だと7・9%に低下するので、なるべく早期に手術を受けるのが胆のうがん治療のカギです。

 ところが、女性セブンによれば、渡瀬さんは手術を受けず、短期の入院や通院で抗がん剤と放射線の治療を受けているとされます。昨年12月に現場復帰してからは、ドラマ撮影などをされているようですから、仮に手術できない状態だったとすれば、仕事を続けると判断されたことで、仕事に穴をあける心配がない治療として、後述するような放射線中心の治療を選択されたのでしょう。

 もうひとつは健康管理です。大好きだった酒をキッパリと断ち、栄養ある食事を心掛けて、体を冷やさないよう冷たいものを避け、服を多めに羽織っているというのは、体の免疫力を高めるためでしょうか。

 それでも、8月の撮影中は熱を出したり、息が切れたりして体調が悪化したらしく、急きょ放射線治療を受けたと報じられています。一連の経緯から推察すると、転移があるのではないでしょうか。そのための放射線治療と思われます。

 女優・樹木希林さん(73)は、がんが全身に転移・再発していますが、がんの進行が分かるたびに放射線治療を受けながら今も元気に活躍されているのはご存じでしょう。渡瀬さんの治療も、それと同じと思われます。

 胆のうがんが悪化すると、皮膚や目の結膜が黄色っぽくなったり、便が白っぽくなったり、尿が濃く茶色っぽくなったりして、腹部の右側、時には背中が痛むこともあります。そのような症状は胆のうがんに特有のものではないので、やっぱり症状をアテにしてはいけません。

■腹部超音波検査を

 では、厄介な胆のうがんをどうやって早期発見するか。1年に1回の腹部超音波検査を受けること。特に要注意なのは、胆石がある人です。胆のうがんの人は、40~70%の割合で胆石があるといわれています。女性は、男性の1.5~3倍発症しやすいので、女性で胆石の人はなおさら注意が必要です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。