本当は怖い!歯の病気

歯を失うと何が起きるのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 国は、生涯にわたって自分の歯を20本以上残すことで健康な咀嚼力を維持し、健康的な生活を送ろうとの「8020運動」を行っている。

 現実は80歳以上での平均残存歯数は9本以下で目標には程遠い状態だが、働き盛りの人からすれば、「なぜ、そこまで歯の本数にこだわるのかピンとこない」という人もいるだろう。

 そこで今回は、歯が少なくなると、どんな不都合が出てくるのかを検証しよう。

 まずは食事だ。「8020推進財団」が作成した資料によると、おいしく食べるために必要な歯の本数は「フランスパン」「たくあん」「酢だこ」「堅焼きせんべい」「スルメイカ」で18本以上、「せんべい」「れんこん」「かまぼこ」「おこわ」「きんぴらごぼう」「薄切りの焼き肉」で6~17本としています。5本以下になると、「バナナ」「うどん」「なすの煮つけ」くらいしか、おいしく食べられなくなる。

「食べる楽しみがなくなり、食べる意欲も消失します。当然、栄養のバランスが悪化して栄養失調になります。しかも、歯が失われて噛みしめる力が弱まれば、唾液の分泌量が減り、菌を殺す力がなくなって虫歯が急速に進行します」(八重洲歯科クリニックの木村陽介院長)

 また、歯を失うと、言葉が不明瞭になる。奥歯だとハ行やラ行が発音しづらくなる。他の歯はサ行がうまく発音できなくなる。

「顔の形も悪くなります。歯周病や虫歯をほったらかしにして片側ばかりで噛んでいると、顔が曲がってきます。歯を失わないまでも歯周病が進行すれば、歯列が倒れてきて口元がゆがんでくる場合もあるのです」(市川歯科医院の市川麻里江副院長)

 なにより恐ろしいのは歯を失い、噛めなくなって歯への刺激が減ると、脳への血流が減少し、認知症の可能性が高まることだ。

「歯の数が少ないか、歯がない人は、多くの歯が残っている人と比べて、認知機能が低下していることが複数の疫学研究から分かっています。また、35歳以下の若いときに奥歯を抜いた人は、認知症リスクが上がるとの報告もあります」(前出の木村院長)

 これに関して広島大学大学院などの研究グループが興味深い報告をしている。アルツハイマー病のマウス21匹を「両側の臼歯を抜いた群」と「抜かなかった群」とに分けて、4カ月後の認知機能と脳組織を比べたところ、「臼歯を失った群は学習・記憶力が低下して記憶をつかさどる脳の海馬神経細胞が減少した」という。

「あくまでも動物実験の結果ですが、逆に言えば歯の喪失を防げば、認知症発症の予防や進行抑制につながるということです」(前出の木村院長)