天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

二尖弁は高リスク 大動脈の病気は血圧コントロールが重要

順天堂大学の天野篤教授
順天堂大学の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 日本では心臓疾患による突然死が年間約5万件も発生しています。突然死する危険がある心臓疾患は、主に①急性冠症候群による急性心筋虚血②大動脈破裂・解離性大動脈瘤(大動脈解離)③致死性不整脈で、今回は②大動脈破裂・解離性大動脈瘤(大動脈解離)についてお話ししましょう。

 大動脈は、心臓から全身に血液を送り出す重要な役割を担っている血管です。その大動脈が、動脈硬化や外傷などによって一部が膨らみ、“こぶ”ができてしまうのが大動脈瘤です。食生活の欧米化や高齢化社会の加速により、患者さんが増えています。

 こぶがそれほど大きくなければ問題ありませんが、急激に膨らんで破裂すると突然死する可能性が高くなり、2割程度しか助かりません。破裂は「大動脈破裂」、大動脈が裂けて解離した場合は「解離性大動脈瘤」(大動脈解離)と呼ばれます。どちらも大出血の危険があり、1度目の発症で突然死するケースも少なくありません。

 こうした大動脈の病気が怖いのは、多くの場合で自覚症状がないことです。そのため、それまでは元気だった人が、突然、大動脈の破裂や解離を起こして亡くなってしまうケースが起こるのです。

 大動脈の病気による突然死を防ぐためには、「高血圧」を放置しないことが重要です。突然死を起こす人は高血圧の人が多く、手術が必要になるくらい病状が進行してしまう患者さんも、血圧が高い場合がほとんどです。つまり、血圧が高い人は、自分では気づいていなくても、こぶができている可能性が高くなるといえます。

 健診などで血圧が高いと指摘されている人は、薬を飲んだり生活習慣を見直してきちんと血圧をコントロールするだけでなく、早めに心臓CT検査を受け、自分が大動脈瘤ではないかどうかをチェックしておいたほうがいいでしょう。

 こぶが見つかった場合、胸部で5.5センチ未満(場合によっては4.5センチ未満)、腹部で5.5~6センチ未満なら、生活習慣を改善しながら経過を観察するのが一般的です。それ以上にこぶが大きい、または大きくなった場合は、ステントグラフト(人工血管の中にバネを入れたもの)を動脈瘤に留置して破裂を防ぐ「ステントグラフト内挿術」という内科治療や、こぶがある場所の血管を取り換える「人工血管置換術」という外科手術を行います。

 ただ、これらの治療は早期に行っても、後から行っても内容は一緒なので、治療によって生活の質を損なうことがなければ、早めに治療を行うケースも最近は増えてきています。

 高血圧以外には、先天性の「二尖弁」によって大動脈解離を起こすケースがあります。心臓には、血液が効率よく一方通行で流れるように調整している弁が4つあります。そのうちの大動脈弁は、通常なら開閉する弁尖が3つあるのですが、それが生まれつき2つにしか分離していないのが二尖弁です。先天的な異常としては比較的多く見られ、日本人の80人に1人の割合で存在するといわれています。

 二尖弁自体が問題になることはほとんどありません。しかし、二尖弁の人は通常よりも大動脈が弱く、だんだん大動脈の一部が膨らんできたり、気づかないうちに弁膜症から大動脈解離を起こす場合があります。それほど多い症例とはいえませんが、時々、見かけるので注意が必要です。先日も二尖弁の患者さんの手術を行いました。

 自分が二尖弁かどうかは、心臓CT検査や心臓エコー検査を受ければ分かります。健診や人間ドックなどを受けた際、心雑音で発覚するケースもあります。また、二尖弁で大動脈弁の逆流が起こっていると、上の血圧(収縮期血圧)が高くなり、下の血圧(拡張期血圧)が低くなります。下の血圧が50mmHg以下だったり、上と下の差が大きい人は二尖弁を疑ってもいいでしょう。

 大動脈の病気による突然死を防ぐには、まず血圧をしっかり把握して、異常があればコントロールすることが重要なのです。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。