妻が「末期がん」になったら

<1>家族のサポート 「頑張れ」と背中を押さず寄り添う

「頑張れ」と背中を押さず妻に寄り添う
「頑張れ」と背中を押さず妻に寄り添う/(C)日刊ゲンダイ

「自分の中で少しずつ覚悟ができていた」――乳がんで闘病中の小林麻央(34)は、先月26日のブログにそう記している。骨への転移も見つかり、抗がん剤によるつらい治療が続く。2人に1人ががんになる時代だが、がん検診の受診率は3~4割ほど。妻のがんの発見が遅れやすい下地がそこにある。妻が末期がんになったら、夫は妻をどうサポートすればいいか。

 石井智士さん(57=仮名)は3年前、接待を終えて終電で帰ると、いつもは寝ている3歳年下の妻がリビングでテレビを見ていた。「どうしたんだ?」と声をかけると、「お帰り」と同時に「がんかもしれない」と返された。あまりにさりげない言葉に「えっ」と口ごもると、「肺がんみたいで、あした精密検査。一緒に来てくれる?」と畳み掛けられた。

「『あたし、たばこ吸わないのに……。たばこを吸うあなたは何でもなくて、なんであたしが』と言われ、返す言葉がありませんでした」

 どんながんであれ、エックス線やエコーなどでがんが疑われると、より精度の高いCTやMRIなどの画像検査、そして組織を採取して悪性度を調べる生検でがんを確定する。

“がんかもしれない”が、“がん”に変わるまでの間に、妻の気持ちは大きく揺れる。石井さんの妻も、ステージⅢの肺腺がんと確定するまで1カ月。その間ずっと一人で耐え、夫に冷静を装いつつ、心で泣いた。それを後から聞いた石井さんは自分を恥じた。

 肺がん治療の権威で、新座志木中央総合病院名誉院長の加藤治文氏が言う。

「がん患者さんに共通するのは、がんと診断されるまで自分の病状や治療法が分からず曖昧模糊とした状況に置かれることで募る不安です。治療法が固まり、治療が進むと、少しずつ覚悟が決まるのですが、抗がん剤治療のつらさなどでまた不安になる。そして、治療が一段落して訪れるのが、再発と転移の不安。周りからは落ち着いているように見えても、心は不安なのです。そういう妻に夫ができるのは、頑張れと背中を押すのではなく、妻の行動を認めてねぎらい、寄り添うことです」

■幼い子供にも臆さず説明する

 仕事があると、妻のサポートとはいえ、すべて背負うことはできない。何をすべきか。石井さんの妻は「料理は好きだけど、皿洗いは嫌い」「洗濯物を取り込んで畳むのも面倒」と語っていたので、朝晩の食後の皿洗いと週末の洗濯物の取り込みを買って出た。もう一つは体力的につらそうな買い物に一緒に出掛けること。引きこもりを防ぐためでもあった。

「妻とよく話をして希望をくんであげたり、妻の口癖を思い返したりすると、妻がしてほしいことが見えてきます。そうやって支えるのが、妻に寄り添うことです。がんを患った人はふさぎ込みやすいので、一緒にいることがうれしいし、外に連れ出してあげれば気晴らしにもなります。働いている夫は、家事や育児を妻任せというケースが多いでしょうから、それを引き受けるだけでも、妻は夫の気配りをうれしく思うのです」(加藤氏)

 石井さんに子供はいないが、子供がいる場合はどうするか。

「子供の年齢に合わせて分かりやすい言葉で丁寧に説明することです。ウソでごまかすと、容体が急変したとき、子供はかえって混乱します。きちんと説明すれば、子供は子供なりに考えて自分から母をサポートしようという気持ちが芽生える。わがままな小さい子や思春期で荒れ気味の中高生が、母の病気を一緒に乗り越えることで家族思いになり、自立することはよくあるのです」

 妻のがんで、夫や父の力が試されている。