Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【前立腺がん】治療するケースとしないケース

俳優ベン・スティラーさんのケース

■PSAで早期発見

 ハリウッドファンは、ビックリしたことでしょう。米俳優のベン・スティラー(50)が、2年前に前立腺がんとの診断で手術を受けていたことをラジオ番組で告白。「がんと診断されて、人生のすべてが止まってしまったんだ。だって、映画を作ることはできないからね。どうなるか分からないから、怖かったよ」と苦しい心境を吐露しています。

 前立腺がんになると、血液検査で分かる「PSA」の数値が高くなります。幸いスティラーは、前立腺がんの診断を受ける2年前から健康診断でこの数値を測っていたため、早期発見することができたそうです。

 前立腺がんの手術を受けているロバート・デ・ニーロに相談。デ・ニーロの主治医を紹介してもらい、複数の専門医とも相談した結果、手術を受けることに。手術から3カ月後には、PSAの数値は正常化し、まず完治したと語っています。

 この連載で何度か触れたように、前立腺がんは他のがんに比べて穏やかなケースが少なくなく、がんがあっても治療せずに寿命をまっとうできることがあります。前立腺がん以外で亡くなった高齢者を解剖すると、寿命に影響しない前立腺がんが見つかるのはそのためです。

 ですから、PSA検査で前立腺がんを早期発見できても、必ずしも慌てることはありません。治療するか、経過を見守るかの見極めがとても大切です。では、治療すべきケースはどんなときか。

 前立腺がんの危険度は「超低リスク」「低リスク」「中間リスク」「高リスク」「超高リスク」の5つで判断します。経過観察が可能なのは「低リスク」以下で、その場合も定期的なPSA検査でがんの状況をチェックするのが必要です。

 治療を検討するのは、一般に「中間リスク」以上で、おおむね「75歳以下」。寿命を平均寿命の80歳とすれば、診断時の年齢が若いほど寿命までの期間が長く、がんが進行する恐れがあり、治療が無難と判断するのです。

■悪性度調べるグリーソンスコア

 その判断に重要な要素が、転移の有無とがんの悪性度。転移はCTや核医学検査などの画像検査で調べ、悪性度は怪しい組織を採取して顕微鏡で調べます。

 前立腺がんの多くは、悪性度の異なる細胞を複数持っているため、最も多い悪性度の細胞を1~5にスコア化し、次に多い悪性度の細胞も1~5にスコア化して、それぞれを足して計算された数値がグリーソンスコア。「6以下」はおとなしく「低リスク」以下、「7」は最も多いパターンで「中間リスク」、「8~10」は悪性度の高い「高リスク」以上です。

 治療法は、手術や放射線、ホルモン療法、化学療法がありますが、日本は手術偏重の傾向があります。手術には、勃起障害や尿失禁などの後遺症を伴うことがあるため、患者さんが望むライフスタイルによって治療法を選択することも大切です。

 そのためには欧米で主流の放射線治療についてセカンドオピニオンを求めるのも重要でしょう。放射線も排便や排尿に関する合併症がありますが、治療終了後は落ち着くことがほとんどです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。