ドキュメント「国民病」

【糖尿病】部下の手前、酒はやめたと言えなかった

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「私にとって『糖尿病』は、共存して生きる友達みたいなもの」

 こう言って笑顔を見せる藤田義一さん(仮名、66歳)は、糖尿病が発症してから今年で18年になる。

 大手金属工業に勤務し、関東圏の工場に単身赴任していた48歳のときに、「糖尿病」を宣告された。毎年1回、会社で実施される社員の健康診断で、「糖尿病の疑いがあります。病院で精密検査を受けてください」と、告げられた。

 糖尿病の疑いがあると言われても、体にこれといった自覚症状が何もなかった。それから半年ほどして自宅近くの内科医院を訪ねた。長年、世話になっている主治医である。

「糖尿病」の検査診断で「ヘモグロビンエーワンシー(HbA1c)」が、8.8(正常値は5.8~6.5未満。不十分、不良が6.5~8.0)。「空腹時の血糖値」が、160(正常値、80~110未満。不十分、不良が130~160未満)もあった。

 検査代金は初診料を含めて6000円。主治医から、「藤田さん、糖尿病の疑いどころではありませんよ。ちゃんとした2型糖尿病(血液中のブドウ糖が正常値より多くなる)です」と、宣告された。

 身長170センチ、体重89キロの藤田さんに、血糖降下剤の飲み薬、「アクトス」など3種類の薬と同時に、「食事療法」のメニューが渡された。

■残業時は1日4食も

 その後、毎月1度帰宅したときに、主治医を訪ねて血液検査をして、1カ月分の薬(約3000円)をもらっていた。しかし、単身赴任中の藤田さんは、朝食や夕食も、カロリーなど考えることもない。残業の時は1日4食にもなった。

「一応、脂肪分の少ない食品とか気を使っていましたが、野菜だけでは腹が減ります。また、私は10余人の部下を持っていました。カロリーオーバーになりがちな酒席は良くないとは思っていました。しかし、いまさら部下との酒席で、酒をやめたとは言えない。相変わらず、酒は飲んでおりました」

 投薬治療を始めてから5年、10年過ぎてもHbA1cや血糖値の数値が変わらない。

 数値は高止まりのまま、やがて藤田さんは60歳の定年を迎えた。主治医から、「藤田さん、食事療法は、全然守っていないでしょう? 会社を退職したのだから、食事療法や、また『運動療法』も実行してください。糖尿病を甘く見ていると最悪、失明や壊疽になりますよ」と、脅かされてしまう。

 定年後、自宅で趣味の木工細工に精を出しながら、1日3食、妻の食事管理で野菜中心の食生活に切り替えた。さらに運動療法にも着手しようとしたが、ジョギングやマラソンは苦手である。自宅から車で15分という農家の畑を100坪(約300平方メートル)借り、体を動かす目的で野菜作りを始めた。

 およそ2年間で体重が73キロに落ち、HbA1cの数値が7.2まで下がった。酒の量も減らしている。