当事者たちが明かす「医療のウラ側」

人工知能が究極のかかりつけ医になる

都内の50代開業医

 以前から、人工知能が医師の仕事を奪うのではないか、といわれてきましたが、意外に早くその時代がやってきそうです。すでに、医師国家試験の合格を目指す人工知能の開発が慶応大学で進んでいて、昨年の段階で国家試験の臨床問題の正解率は55.6%まで上がっているそうです。これは過去27年分の医師国家試験の臨床診断問題700問を学習させ、実際に27問解かせたところの正解率だそうです。しかも、画像付きの問題だと正解率は64.7%まで高まるそうです。過去の合格者の平均正答率は66.6%だそうですから、人工知能が医師国家試験をパスするのは時間の問題でしょう。

 なかでも人工知能が得意なのは画像や波形の診断ですから、CTやMRI、心電図での応用が進んでいます。人間なら数千枚の画像から腫瘍を見つけ出すのは大変ですが、コンピューターなら一瞬で探し出すことができます。しかも、どんな画像ならどんな病気かも、過去の臨床画像データを自ら学習できる人工知能ならすぐにできます。

■時系列問題が苦手

 実は、同じことが内視鏡診断でもできるようになりつつあります。開発された内視鏡診断システムは内視鏡専門医が4秒かかる診断を、0.3秒という速さで行い、95%以上という高い正答率を叩き出すことができるというのです。もはや膨大な医学論文を詰め込んだ人工知能が支配する診断支援システムの作動は待ったなしです。

 では、医師の仕事は完全に人工知能に取って代わられるのでしょうか? どうやらそうともいえないようです。先ほどの医師国家試験をパスする人工知能を開発している教授によると人工知能はいまのところ、時系列の情報の意味を理解できないそうです。例えば、「1カ月前の発熱」「1週間前の発疹」といった時系列での普通の文章は、「1カ月前に発熱しました」「1週間前に発疹が出ました」というふうに言い換えてあげないと、まだ理解できないというのです。

 むろん、こうした問題点はいずれ解決するでしょうが、医師抜きで診断するのは当分ムリだそうです。あくまでも医師の診断を補助する診断補助システムということになるのでしょう。ただ、人工知能は膨大なデータを解析できるのですから、一人一人の患者の治療歴を学習して、その患者に特化したルールを作っていけば究極のかかりつけ医師になるとの期待があるそうです。そうなると医師の仕事の量は減りますが、年だからといって医師をやめる必要もなくなる。医師不足も解決するかもしれません。