独白 愉快な“病人”たち

渡部又兵衛さん 膝下切断の告知に思わず「舞台立てます?」

お笑い芸人の渡部又兵衛さん
お笑い芸人の渡部又兵衛さん(C)日刊ゲンダイ
お笑い芸人66歳<糖尿病>

 みんなに「糖尿病合併症のデパート」と言われるくらい、神経障害から白内障、腎不全、壊疽までなんでも経験しました。2004年には、ついに左足の膝から下を切断するはめに。今も週3回の人工透析をはじめ、あれこれ治療中の身です。それでも舞台に立てているし、62歳で初めて結婚できたんですから、人生何があるかわからないですよね(笑い)。

 じつは両親ともに糖尿病だったので、若い頃から「お前も必ずなる」と言われていました。で、コント集団「ザ・ニュースペーパー」を始めて間もない40歳すぎに病院で検査したら、糖尿病が発覚したんです。

 しばらくは処方された薬を飲んでいましたが、病院の予約が面倒になって、すぐに病院に行かなくなってしまいました。少し疲れやすかったり、喉が渇くといったことはあったけれど、痛くもかゆくもなかった。でも、1~2年して足がむくみだしたんです。周囲の人からむくみを指摘されるようになっても、朝には治っていたので「大丈夫」って放っておいたら、ある日、お客さんに「足むくんでますね。大丈夫ですか?」と心配されて……。舞台でスカートはいたりするもんだから、見えてたんですね。

 それで仕方なく病院で診察してもらい、利尿剤などをもらってしばらく通院していたら、そこの医師が「専門病院へ行った方がいい」というもんで、東京女子医大の糖尿病センターに行ったんです。検査後、医師からは「ヒドイというよりヤバイという感じ」と言われました(笑い)。

 そこから、怒涛の糖尿病合併症のオンパレードでした。両目の白内障の手術から始まり、背中に結核菌がついて膿がたまって大手術。保健所も巻き込む大騒ぎで、糖尿病ゆえに免疫力がないので、医師には「命の保証はできない」と言われました。3カ月入院して、やれやれと家に帰ってきた1週間後、今度はガスファンヒーターに足を近づけたまま寝ちゃって、左足の親指の皮がペロンとむけました。それがきっかけで、左足の膝から下を切ることになったのです。

 糖尿病による神経障害で、痛みを感じなくなっていたんですね。やけどを放っておいたら黒くなってきて、2~3カ月後に壊疽の専門家に診てもらったときには「骨が見えるし、ちょっと臭うね」と指摘され、「整形外科と一緒に治療しよう」ということになりました。その段階で、親指切断は確定。ところが、ベッドが空くまで1週間あり、その間に高熱で倒れてしまって、医師から「指だけじゃなくて膝から切らなきゃダメみたいだ」と言われたんです。

 その瞬間、私が発した言葉は「舞台立てます?」でした。そしたら医師が「一番義足を付けやすいところで切るから大丈夫」と言うので、「じゃ、いいか」とすぐに納得しました。でもね、後日談ですけど、義足を作ってくれた人は「あと1センチ短くしてくれたほうが良かった」と言ってました(笑い)。

 その後も3回低温やけどを経験したので、こたつもファンヒーターも湯たんぽも全部捨てました。動脈硬化が進むと、やけどしやすくなるようです。

 左足の手術後、このままいけば右足も失うことになるかもしれないと、血管バイパス手術の名医である旭川医大病院の笹嶋唯博先生(現在は江戸川病院血管病センター長)を紹介されました。診てもらったときは、すでに右足先の毛細血管がない状態。指先に血が通っていませんでした。手術は5~6時間かかって成功し、「もっと早く先生のことを知っていたら、左足も切らずに済んだのに」と正直、思いました。

 そして、06年にそんなこんなを書いた本「お笑い芸人 糖尿病と二人連れ」を出版したんです。それを偶然、図書館で読んだというのが25年前に別れた女性で、現在の妻なんです。ドラマチックでしょう? 本の中で「足を失ったことよりも彼女を失ったことのほうが悲しい」と書いたのを読んで、4年前に舞台を見に来てくれたんです。すぐにお付き合いが始まりました。

 結婚を決意したのは、それから2~3カ月後に私が倒れて入院したとき、彼女が病院に駆けつけてくれたのに「病室には家族しか入れなかった」という経緯があったからです。糖尿病のおかげで結婚できたようなものです(笑い)。

 今、元気でいられるのは、彼女の内助の功はもちろんですが、次から次にニュースを追いかけていつも笑っているからだと思います。もし、シリアスな劇団だったら、もうとっくに寝たきりだったんじゃないかな。

▽わたべ・またべえ 1950年北海道出身。大学で演劇を学び、劇団民藝に入団。新劇役者として舞台を経験した。7年後に退団し、平成元年に社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」を結成。迫真の演技を笑いに結び付ける貴重な存在として、年間60~70公演の舞台に立つ。2017年1月28日には「ザ・ニュースペーパー東京公演」(江東区文化センター)が行われる。