Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

だいたひかるさんは全摘 選択肢増やす医師への質問の仕方

だいたひかるさん
だいたひかるさん(提供写真)

 長年がん治療に携わっている医師として、「どうでもいい」とは言えません。「どうでもいいですよ」を枕ことばにネタを展開するタレントのだいたひかるさん(41)が、先月「女性自身」に乳がんで右乳房を全摘したいきさつを語ったことです。

 ざっと経緯をおさらいしましょう。乳がん検診で乳がんが見つかったのは昨年初め。指摘された部分を自分で触診してもまったく気づかなかったそうですが、エコー検査の結果、しこりは27ミリ。病期はステージⅡaで、リンパ節への転移があるかどうか手術しないと分からないと説明されたそうです。

 私が注目したのは、その後。記事には、こう書かれています。

「部分切除だと3分の1(右乳房を)残せるけどリスクがどうのこうのって。ホルモン受容体陽性ってタイプだからホルモン療法が期待できるとか、お経みたいで……。よくわからないから、聞き方変なんですけど、『(治療法の)オススメはなんですか?』って聞いたんです。そしたら『全摘』って言われました」

 医師の説明のまま、だいたさん夫妻は全摘手術を受けることを決断。乳房を失い、抗がん剤治療の後、ホルモン療法を受けています。しかし、このケースだと、全摘せず乳房を残せた可能性が高かったと思えてならないのです。

■乳がんで全摘したオッパイは温存できたはず

 ポイントは、「ホルモン受容体陽性」。この用語は、乳がんのホルモン療法が効くことを意味します。いきなり手術を受けるのではなく、まずホルモン療法で腫瘍を縮小すれば、広く手術をする必要がなくなり、乳房温存手術を行うことができる可能性が高くなります。そうしてから放射線治療を加えれば、治療効果は全摘手術とほぼ同じ。

 しかし、現実は逆の選択をされています。ステージⅡの治療法として全摘はガイドライン上、間違ってはいませんが、女性の象徴を失うハンディは重い。治療効果が同じ可能性があるなら、乳房温存治療を選んでもよかったでしょう。乳房温存手術なら、手術の合併症の肩の運動障害も比較的軽く、術後の回復が早いというメリットもあるのです。

 そうしなかった理由はなぜか。「オススメはなんですか?」という医師への質問の仕方にあったと思われます。外科医は手術をするのが仕事ですから、こう聞かれたら「全摘」と答えるのはある意味、当然でしょう。だいたさんと同じようなやりとりをした結果、残せたはずの乳房を失って悲しい思いをされる女性が少なくないのです。

 記事からは、がん告知によるショックで動揺している様子が見て取れます。診断直後は自殺率も高まりますから、動揺するのは当然。そういうときに、治療法や仕事のことなど生活の大切なことを焦って決めない方が無難。2週間くらい休んで頭を整理してから決めればいいのです。

 セカンドオピニオンを求めるなら、外科医ではなく、すべてのがん治療に精通している放射線科医に聞くこと。そうやって、「全摘以外の治療法はないか。乳房を残す可能性がある治療法はないか」と質問すれば、いろいろな治療の選択肢の中から納得できる治療法を選択できるのです。

 乳がん検診の対象は40歳ですが、フリーアナウンサーの小林麻央さんのケースのように、30代半ばでの乳がん発症は珍しくありません。30代でも、セルフチェックやパートナーと一緒にチェックすることが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。