通勤電車内や仕事の会議など、緊張やストレスが高まる場面になるとお腹が痛くなる慢性の下痢は“下痢止め(鎮痙剤)”を飲んでもいい。しかし、発熱や嘔吐を伴う急性の激しい下痢(水のような液体の下痢)は、下痢止めを飲んではいけない。食中毒やノロウイルスなどの感染性胃腸炎が疑われるからだ。
消化器病専門医で山村クリニック(東京都文京区)の山村進院長が言う。
「食中毒や感染性胃腸炎で起こる下痢や嘔吐は、体内で増殖した細菌やウイルスを早く体外へ出そうとする体の防御反応です。その動きを薬で抑えてしまうと、病原体の排出を遅らせてしまい、治りを悪くするのです」
食中毒や感染性胃腸炎が疑われた場合、市販薬で効果があるものはほとんどない。基本的には自宅で安静にして症状が治まるのを待つしかないという。その療養中に大切になるのは、下痢がひどくても水やスポーツ飲料などをこまめに飲んで脱水を防ぐことだ。
「水分の取り方は、一気に大量に飲むと胃腸が刺激されて下痢や嘔吐が起こりやすくなります。少量をこまめに飲むことがポイントです。飲料は冷たくせずに、常温や少し温かい状態で飲むのがいいでしょう」
食欲がなければ食事は無理して取る必要はない。持病の薬を常用している人でも、薬を飲むために食事をする必要はないという。心臓病や脳卒中の予防薬を飲んでいる人は、必要な薬を決められた通りに飲む。糖尿病の薬は、食事をしなければ飲む必要はない。逆に、食事をしないのに飲むと低血糖を起こす恐れがあるから要注意だ。
「ウイルス性胃腸炎の症状のピークは1~2日です。細菌性では、下痢がウイルス性ほどひどくない場合もあるので、少し遅れて2~3日で峠を越します。食欲が出てきたら、おかゆなどの消化のいいものを取るようにしてください」
すぐ受診した方がいい下痢は次のような場合だ。
●便に血が混じる(腸管出血性大腸菌の恐れ)
●半日も尿が出ない(高度の脱水)
●キノコやフグを食べた後の下痢
●4~5日しても熱が下がらない、症状が改善しない
医療機関では、重症感のある患者には抗生物質(抗菌薬)を投与する場合もある。
「ウイルス性には抗生物質は効きませんが、下痢が強いと腸粘膜のバリアーが破壊されます。そこから細菌感染することがあるので、抗生物質を使う場合があります」
受診までの「応急処置」