独白 愉快な“病人”たち

胃がん経験した横島亘さん 「患者は黙ってちゃいけない」

横島亘さん
横島亘さん(C)日刊ゲンダイ
俳優58歳<胃がん>

 2011年の4月、胃がんの初期と告知されて、腹腔鏡手術で胃の3分の2を切除する手術を受けました。医師からは「1週間でゴルフもできますよ」なんて言われて、「なんだ、そんなもんか」と気楽に考えていたんですが、その2カ月後には脾動脈瘤破裂となり、2週間で終わるはずが、なんだかんだで3カ月間かかりました。

 前触れは、手術を受ける2年前の逆流性食道炎でした。胃の調子が悪くて胃カメラ検査をしたら、食道炎だけではなく「ピロリ菌がいるのでそっちも退治しましょう」と言われました。でも、その日もらって帰った薬(胃酸を少なくする)がとてもよく効いたので、ピロリ菌の除菌を無視して勝手に病院に行くのをやめてしまったんです。

 それ以来、お酒を飲んで胃が痛むと市販の胃薬を飲んでごまかし続けました。でも、2年後には「ガスター10」を1週間飲み続けても痛みが取れなくなったため、再び病院に行ったら、いきなり「初期の深いがんです」と告げられたんです。

 もう、目が点になりましたよ。「初期の深いがんって何? どういうこと?」と固まっている私に、さらに医師が放った言葉は「ズバッと言いますけど、開腹手術で切っちゃいましょう」でした。

 でも、ちょうどそのころ、妻が乳がんで入院中だったので、どうせ入院するなら同じ病院にしようと思い立ちました。それで、そっちの病院で診てもらったら、「腹腔鏡手術でいきましょう」と言われたわけです。昔は失敗が多かった手術だということが頭をよぎりましたが、もう大丈夫だろうと思い、決意しました。

 入院予定は1~2週間。とはいえ、仕事レベルの声がすぐに出るかわからない。アフレコ現場で相談したら、「じゃ、横島さんの分だけ先にとりましょう」となり、週1回の30分アニメ番組を半年先まで録音したんです。私のセリフだけ先に作ってもらい、絵を後から合わせるということでした。その時は「そんなに先までしなくても……」と思いましたが、やっておいてよかったですよ、本当に(笑い)。

 腹腔鏡手術の後、予定通り1週間で退院したものの、なんとなく調子が悪い。術後の通院治療の際、担当医に「痛みで眠れない」と訴えたのですが、それでも経過観察が続きました。そしてついに6月、自宅で大量下血したんです。

 救急車で手術した病院に行くと「脾動脈瘤破裂」と診断されました。腹腔鏡手術の影響で脾臓の動脈に瘤ができ、それが破裂し、その血が縫い目から胃にたまって下血したとのことでした。傷ついた血管はコイルのようなものでふさがれ、瘤化は解消されました。

 思えば、最初の手術から退院までずっとスッキリせず、調子が良くなかったんですよね。でも、手術が初めてだったから、その調子の悪さが異常なのか、一般的なことなのかが判断できなかったんです。看護師さんに「大丈夫ですか?」と聞かれたら、よほどのことがなければ「はい」と言ってしまうし、退院後の痛みも耐えられないほどではなかったから、我慢してしまうし……。「手術したから良くなっているはずだ」と思ってしまいますしね。

 だから、今言えることは「患者は勇気をもって自分の状態を伝えよ」ということです。わからないことはなんでも聞き、具合が悪いことは強めに訴えた方がいい。昔、“男は黙って○○ビール”なんてCMがありましたけど、患者は黙ってちゃいけません。

 あれから5年が経過しましたが、いまだに声は戻っていない気がします。術前のメタボ体形から15キロも痩せたせいもあるかもしれませんが、胃と一緒にリンパ節も取ったので免疫力がなく風邪をひきやすいし、声もかれやすいのでペース配分が必要です。

 ただ、くしくも次の舞台では、ホスピスで暮らすがん患者のひとりを演じます。痩せた外見を含め、少しは病気の経験が生きるのではないかと思います。

 病気して一番変わったことといえば、食事の速度です。食べちゃいけないものはありませんが、血糖値の急上昇がいけないので、ゆっくり食べるのが鉄則。順番も生野菜が先と決めています。以前、差し入れでいただいた小粒のあんこ菓子をパクッと食べたら、それだけでフラフラになりました。あと、ラーメンが大好きなんですけど、1杯食べるのに1時間ぐらいかけなくちゃいけないから、誰かを連れて行って半分ずつとか……。苦労してます(笑い)。

▽よこじま・わたる 1958年青森県生まれ。大学卒業後、1982年に「劇団民藝」に入団。声優として、映画、海外ドラマ、アニメなど数多くの作品で活躍。俳優としては舞台を中心にテレビ、CMなどに出演。2月4~14日には、舞台「野の花ものがたり~徳永進『野の花通信』より~」(紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)に出演する。