高齢化社会が進む日本では「サルコペニア」が深刻な問題になっています。筋肉の減少による「加齢性体力低下症」とも呼ばれ、加齢によって骨格筋量が減少して筋力が低下し、身体機能も衰えてしまう病態です。
体幹筋肉を使用する運動量が減少することから、歩行速度の低下、握力の低下に至り、筋肉量が減少してしまう悪循環に陥ります。その結果、体を動かしにくくなって転倒リスクが上昇するなど、日常生活が困難になったり、活動量が落ちることで、時として高度な肥満を招き、生活習慣病のリスクがアップしてしまいます。
とりわけ高齢者がサルコペニアになると、筋肉量の減少→活動量の低下→食欲低下→食事摂取量減少による低栄養→さらなる筋肉量の低下や免疫力の低下……という死への悪循環に陥ってしまいがちです。日本では65歳以上の高齢者の5人に1人がサルコペニアともいわれるだけに、深刻な問題なのです。
サルコペニアは心臓にも悪影響を与えます。心臓は筋肉でできているため、サルコペニアの人は心筋の量も低下していくと考えがちですが、これは当てはまりません。心臓は、体中に血液を送り続けるために常に動いている臓器です。安静にしていても最低限の負荷がかかり続けているので、サルコペニアでも心筋が極端に衰えるということはないといえます。
■血圧の上昇を招く
サルコペニアが心臓の負担を増大させる大きな要因は「血圧の上昇」です。低栄養になり、筋肉量が減って身体機能が低下すると、体は重要臓器を守ろうとして血圧を上昇させるのです。心臓や脳の機能を維持するためには、一定量の血液を送り続けて栄養や酸素を供給しなければなりません。
そのためサルコペニアになると、血圧を上昇させる働きがあるホルモンが分泌されることが知られています。
また、「サルコペニア肥満」も血圧をアップさせます。筋肉が減少した場所に脂肪が入り込んで蓄積する状態のことで、サルコペニア肥満の人は、そうでない人に比べて高血圧症になるリスクが2倍以上高いという報告もあります。
サルコペニア肥満が進むと、肥大した脂肪細胞からアンギオテンシノーゲンという生理活性物質が分泌されます。この物質には血管を収縮する働きがあるため、血圧を上昇させるのです。
また、肥満になるとインスリンが過剰に分泌されます。インスリンは腎臓でのナトリウムの再吸収を高進して血液中のナトリウム濃度を高めるため、血圧が上がります。インスリンの過剰分泌は交感神経系も刺激し、末梢血管を収縮させる働きがあるホルモンが放出されます。これも血圧を上げる要因になります。体力が落ちた人の高血圧は、震災後の高齢者に見られた健康被害のように重症化しやすく、血圧が上がればそれだけ心臓の負担は増大します。
さらに、もともと心臓疾患を抱えている人がサルコペニアになると、病状が一気に悪化することも報告されています。
心不全患者を対象に行われた研究では、サルコペニアの度合いが高い患者は、心不全による再入院や死亡率が高くなることが明らかになったのです。
なぜ、サルコペニアが病状を悪化させるのかについては、まだハッキリ分かっていません。最近の研究では、筋肉には臓器の働きを維持するために重要な、生理活性物質を分泌させる内分泌器官としての役割があり、サルコペニアによってその役割が失われてしまうからではないかと考えられています。筋肉量が減少すると体全体のバランスが崩れ、心臓などの臓器にも悪影響を与えるのです。
心臓を守るためにも、サルコペニアを予防することが何より大切です。筋力の衰えを感じたら、毎日少しずつでもいいから近所を散歩するなど、下半身を動かすことを意識しましょう。激しい運動をする必要はなく、無理なく継続することが肝心です。
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