数字が語る医療の真実

がんの早期発見は誰にでもメリットがあるとは限らない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 乳がんを含め、がん検診には「偽陽性」や「放射線被ばく」の害以外にも、避けがたい問題があります。

 たとえば、60歳の女性ががん検診で早期の乳がんと診断されたとしましょう。「早期発見でよかった」というわけですが、本当にそうでしょうか。早期発見とはいえ、乳房の一部を手術し、放射線治療をして、抗がん剤の投与を受け、その後も通院することを考えると案外大変です。

 一般的に乳がんの進行は遅く、早期がんから進行がんになり、末期がんに至って死をもたらすまでには、数十年の年月を要する場合も多くあります。進行がんに至るまでに10年、死に至るまでには20年かかるとすると、先の60歳の患者さんは、検診を受けずに70歳で進行がんと診断され、そこから治療を始めて75歳の時に乳がんではなく心筋梗塞で死を迎える――というような結末も容易に想像できます。

 75歳で心筋梗塞によって死亡するのであれば、60代に限って言えば、がん検診で早期発見して「乳がん再発の不安」を抱えながら70歳までを過ごすのに比べ、再発の不安を抱くこともなく、治療や通院もせずに70歳までを過ごせるほうがいい面もあります。

「がん」という診断を聞くと、早期発見・早期治療をしなければそのがんで死んでしまうというように考えがちですが、必ずしもそうではありません。明日に心筋梗塞で死ぬことが分かっていれば、今日がん検診を受けようとは考えないでしょう。もちろん、明日のことは分からないわけで、「やっぱりがん検診を受けておこう」ということになるかもしれません。難しいものです。