がんと向き合い生きていく

<2>検査を受けて晴れ晴れとした気持ちになれた

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 恐縮ですが、私自身の体験をお話しします。数年前、仕事のスケジュールがびっしり詰まっていたことに加え、思わぬストレスが次々と重なり、時々上腹部がキリキリと痛んでいました。食欲が落ち、少し食べてもすぐに胃がいっぱいになった気がしていました。

 胃薬を飲んでみたものの、上腹部はいつも重苦しく、「ここに胃がある」と自覚するような状態で、「もしかしたら自分はスキルス胃がんかもしれない」と思うようになりました。進行したスキルスがんでは、胃の壁ががんで厚くなって胃袋が膨らまなくなり、たくさん食べられなくなるのです。

 そこで、やっと時間を見つけて内視鏡の専門医に胃を診ていただくことになりました。内視鏡検査日の朝、病院に向かう電車の車窓から見る景色は、いつもと違って見えました。

「今日の帰りは、どんな気持ちで電車に乗っているだろうか?」

 白衣を着ている時の自分とは違って、いよいよ検査するとなると、すっかり患者になっています。「つらい時は手で合図してくださいね」「はい、ごっくん、ごっくんして。はい、上手ですよ……」といった内視鏡医や看護師さんからかけられる言葉に対しても、普段は気づかない優しさが身に染みます。患者である私もモニター画面に映る自分の胃を見ながら行った検査でしたが、「胃の膨らみもよくて、潰瘍もありません。大丈夫ですよ」との診断でした。

 検査が終わった直後から、すっかり晴れた気持ちになりました。あの胃のあたりの重苦しさがまったくなくなって、いつもの元気な白衣の自分に戻れたのです。

 家に帰って、夕食をたくさんとる私に妻が言いました。

「心配させて……。お父さんは、検査の結果がいいと症状はすぐなくなるのよね。医者じゃないみたい」

 がんによる症状というのは、その部位によって異なります。一般的には、肺がんは血痰、咳、食道がんは食べ物がつっかかる、大腸がんは血便、乳がんでは乳腺にしこり……などが挙げられますが、初期のがんでは症状がない場合が多いのです。やはり、早く見つけて、早い処置をして、完全にそのがんを消失させることが大切です。

 しかも初期なら、場所によっては内視鏡で切除、手術となっても一般的には軽く、手術後の抗がん剤治療や放射線治療を必要としないことが多いため、長い間、苦労しなくて済むといえます。

 早めにがんが見つかることで、早く治癒する可能性が高くなります。病院にかかる時間と費用も少なくて済むわけです。ですから、症状はなくとも検診を受けるべきです。

 ただ、日本での検診率は30~40%と低く(がん種によって違います)、キャンペーンをしてもなかなか増えていません。医療制度の違いもあると思いますが、アメリカやイギリスなどでは乳がん・子宮がん検診率は70%以上にも及びます。

 検査を受けてがんがなければ、すっきりと晴れ晴れとした気持ちになれます。私もそうでした。

 もし、がんが見つかったとしても、「いま、見つかってよかったんだ」と考えるべきだと思うのです。がんは1期から4期に分けられますが、1期(早期がん)であれば、胃がんでの5年生存率は99・1%、結腸がんで92・3%、直腸がんでは97.6%です。ほとんどが“助かる”といえるのです。

 もし、治療となって心配があれば、ぜひ担当医に聞いてみてください。自分の体のことです。遠慮はいりません。

「ここの病院では、私のがんのステージでは5年生存率は何%ですか? ここ5年間で、手術で重篤な状態になった方は何%ですか? 亡くなった方はいらっしゃるのでしょうか?」

 クリニカルインディケーターといって、その病院の最近の治療成績をホームページに公表している病院もありますから、ぜひ参考にしてください。

 早く晴れ晴れとした気持ちに戻るためにも、早く治療を始めて早く治癒するためにも、検診は大切なのです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。