Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【大島康徳さんのケース】大腸がんステージ4でも18%の“勝ち組”に入る条件

「今後の人生を前向きに生きる為に病気を公表することも決意しました」

 ブログでそう語り、大腸がんのステージ4であることを公表したのは、野球解説者の大島康徳さん(66)。読者なら、中日や日本ハムで活躍した姿を覚えている方も少なくないでしょう。

■食欲旺盛ですき焼きも

 ブログによると、昨年10月下旬に大腸がんを手術で切除。肝臓への転移もあり、現在は入院で3回目の抗がん剤治療を受けているそうです。容体は安定しているのか、食欲旺盛な日常がつづられ、ロールケーキを頬張り、家族ですき焼きを囲んだ様子も書かれています。

 治療は、点滴の抗がん剤を終え、現在は飲み薬を6錠。その粒が大きくて飲みにくいことをタレントの口癖にたとえて、「喉が赤ちゃんなんですかね」と笑いを誘う余裕も見せています。

 恐らく服用しているのはカペシタビンで、がん細胞の増殖を抑えて腫瘍を小さくしたり、術後の再発を予防したりする目的で使用。大腸がんのほか、乳がんや胃がんにも使われる薬です。

 この薬は、抗がん剤のオキサリプラチン、分子標的薬のアバスチンと3剤を組み合わせて使うのが一般的。ステージ4の大腸がんは20年前だと余命3カ月程度でしたが、現在は2~3年に延びています。その効果は、分子標的薬によるところが大きいでしょう。48歳で亡くなった私の義姉も、大腸がんと診断されたとき転移がありましたが、こうした治療で4年ほど延命しました。

 大島さんのケースは、原発の大腸がんを手術で切除できたのがラッキーでしょう。ステージ4の大腸がんの5年生存率は18%と低いのですが、手術できると「18%」に入る可能性が高まります。ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは、原発の大腸がんも転移がんもすべて手術で克服。大腸がんの手術からは12年が経過しています。

■検便と脱メタボの生活

 しかし、ステージ4で手術できるかどうかは、微妙なところ。ステージ1なら98%は完治しますから、早期発見に努める方が無難。ぜひ1年に1回の検便を心掛けてください。検便で早期に異常を発見できれば、死亡率が低下することが国際的に明らかなのです。

 大腸の中でも、直腸の近くには、排尿や性機能を調節する自律神経があり、重要な神経や筋肉、前立腺などもあるため、直腸がんが進行すると厄介です。つらい思いをしないためにも、早期発見に勝るものはないでしょう。

 昨年、大腸がんによる死亡数は5万1600人で、米国の予測値は5万260人。人口が米国の4割以下の日本の方が大腸がんの死者が多いのは深刻な事態です。大腸がんは、食の欧米化や運動不足と密接に関係し、がんの中でも生活習慣病的な側面もあります。

 食の欧米化、メタボ化が進む日本では大腸がんが急増しているだけに、検便と脱メタボの生活で大腸がんを早期に克服することが大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。