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【反回神経麻痺】東邦大学医療センター大森病院・耳鼻咽喉科(東京都大田区)

東邦大学医療センター大森病院の松島康二医師
東邦大学医療センター大森病院の松島康二医師(提供写真)
音声改善手術の年間手術数で国内トップクラス

 声帯の動きを支配している反回神経が何らかの原因で麻痺した状態を「反回神経麻痺(声帯麻痺)」という。声帯の動きが障害されるので、「声がかれる」「息が漏れて声が長く続かない」「むせる」「誤嚥」などの症状が表れる。

 反回神経は、脳から直接出ている迷走神経から分枝した神経で、甲状腺、食道、肺、大動脈の近くを走行する。これらの臓器にがんなどができることで、神経が圧迫され障害を受ける。また、その疾患を治療するための手術で損傷する場合も多い。手術時の気管内挿管によるものや、特発性(原因不明)の麻痺もある。

 同科は、その失われた声を取り戻す「音声改善手術」の年間手術数で国内トップクラスを誇る。同科で音声外科を専門とする松島康二医師が言う。

「反回神経麻痺の治療には、麻痺により痩せてしまった声帯に自家脂肪などを注入して膨らます『声帯内注入術』もありますが、効果が確実ではありません。ですから、当科では患者さんの全身状態が悪くない限り、外科手術をメーンに行っています。ただ、手術は高度な技術を要するので対応できる施設が少なく、手術で治ることを知らずに諦めている潜在患者さんが多いのです」

 声は、左右2つの声帯が触れあって振動することで音を出している。反回神経麻痺を生じると片側の声帯が動かなくなる。声帯内注入術は、その動かなくなった声帯に物質を注入して膨らませ、もう片方の動く声帯と触れやすいようにさせる治療法だ。

■2つの術式を同時に併用できる

 一方、外科手術は頚部を切開して、動かなくなった声帯を発声・嚥下時の位置に移動させる、「披裂軟骨内転術」と、声帯を外から押して膨らませる「甲状軟骨形成術Ⅰ型」の2つの手術がある。これらは「喉頭形成術」と総称される。

「通常、声を出すときには披裂軟骨が内転して、声帯を中央に移動させます。披裂軟骨内転術は、麻痺した片側の声帯が付着している披裂軟骨を内転させて固定する手術です。甲状軟骨形成術は、麻痺で痩せてしまった声帯を外側から押して膨らまして中央に寄せる手術になります」

 外科手術ができる施設でも、どちらか片方の術式しかやらないケースが多い。しかし、同科は2つの術式を同時に併用。それだけ音声改善が確実になるという。松島医師は、2009年に喉頭形成術のパイオニアである元京大教授の一色信彦医師のもとで技術を習得した。

 両術式をマスターする医師は、国内では20~30人しかいないという。

 手術時間は、披裂軟骨内転術が1時間半、甲状軟骨形成術が1時間で、縫合に30分ほど。術後はできるだけ筆談で過ごし1週間後に抜糸して退院。退院後は声を出してもいいが、手術による喉の腫れが完全に治まるまで3カ月くらいかかる。合併症は、術後の喉の腫れがひどい場合には気管切開が必要になるが、同科では過去約100例中1例だけだという。

「手術をすれば、少なくとも元の声の状態の8割くらいまでに改善させることができます。また声帯が動かないことで、食べ物が気管に入ってむせ込んでしまう嚥下障害も、みなさんとても良くなっています」

■データ
1925年、帝国女子医学専門学校付属病院として開院。
◆スタッフ数=常勤医師12人
◆年間初診患者数(2016年)=3189人(うち反回神経麻痺の患者数=約60人)
◆反回神経麻痺の年間手術件数=20~30件