Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【渡瀬恒彦さんのケース】難治性胆のうがんでも“ぴんぴんコロリ”

胆のうがんで闘病中の渡瀬恒彦さん
胆のうがんで闘病中の渡瀬恒彦さん(C)日刊ゲンダイ

「体調は、よくはないですよ。現状維持な感じ」

 胆のうがんで闘病中の俳優渡瀬恒彦さん(72)が、がんについて語ったことが報じられました。昨年5月の週刊誌報道などによると、2015年秋の検査でがんが発覚。その後は、放射線と抗がん剤の治療を受け、同年12月に現場復帰しています。今も通院中で、小康状態のようです。

「食欲は減りますね。一生懸命食べますけど」という話の割には、口調からは不安は感じられなかったといいます。献身的な妻の支えや、大好きな現場で仕事ができる喜びが励ましになっているのでしょう。

 胆のうは、肝臓で作られた胆汁を貯蔵する臓器で、食事後に収縮して胆汁をしぼり出し、消化を助ける働きがあります。そこにがんができても、初期は自覚症状に乏しく、早期で発見されるのはほかの症状で受けた腹部超音波やCTなどの検査でたまたま見つかるケースが一般的です。

 早期で手術ができても5年生存率は60%。ステージ3では17・3%、同4は2・9%と下がります。早期なら100%近い成績の胃や大腸のがんと比べると、その悪さは歴然。難治がんとされるゆえんです。

 しかし、渡瀬さんは発見から1年以上経過してなお、がんと折り合い、家庭と治療を両立しながら前向きに仕事をされています。この状況は、元日本ハム監督の大沢啓二さん(享年78)が7年前に胆のうがんで亡くなったときと似ています。

■大沢親分と酷似

 大沢さんが、故・菅原文太さん(享年81)の紹介で私の外来にセカンドオピニオンを求めに来られたとき、胆のうがんは報道されていた通り進行した状態。それに加えて糖尿病などの持病があり、手術や抗がん剤の治療ができる状態ではありませんでした。

 そんな状態でありながら、亡くなる1カ月前までテレビ出演を継続。何事もないように「喝」を入れていたのが印象的でした。経過のチェックで私の外来に来られても、CTなどの画像検査を受けて雑談するだけ。放射線科医の私ですが、放射線もお勧めしませんでした。肉体的には、そういう状況だったのです。

 がんが進行したケースでは、「何もしない」選択がベストなこともあります。その方が、あまり体力を落とすことなく、亡くなる直前まで仕事ができることが少なくないのです。

 そんな治療法を選択していれば、たとえ末期がんでも、亡くなる2、3週間前まで寝たきりになるようなことはまれです。その意味では、がんは“ぴんぴんコロリの病気”といえるでしょう。渡瀬さんのがん報道に触れ、ふと大沢さんのことを思い出しました。

 渡瀬さんは、家庭や仕事を軸にして、そこに支障がないように治療法を選択されているのだと思われます。何もしていないわけではないですが、無理な治療をされてはいないのでしょう。これから撮影が始まるドラマに今後も継続的に出演したいか問われると、「生きていれば!」と宣言していることからも、生きることに前向きで、そんな姿勢が見て取れるのではないでしょうか。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。