「多死社会」時代に死を学ぶ

13年後には47万人が「死に場所難民」になる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 病室で家族と医師、看護師らに見守られながら、静かに息を引き取る――。

 今は当たり前に思える風景が、“ああ、あの頃に亡くなった人は幸せだった”とため息をつく時代が目の前に迫っている。

 厚労省の推計によると、団塊の世代がすべて80歳以上となる2030年には、47万人が病院に入れず「死に場所難民」になるという。

 九州の山間部の町に住む田中幸一さん(82歳=仮名)は、2歳年下の妻と2人暮らし。2人の息子はそれぞれ家庭を持ち、東京と名古屋で暮らしている。心臓に持病のある田中さんは妻と話し合い、万一のときは心臓マッサージや人工呼吸などの蘇生処置をしないことを決めた。かかりつけ医にも伝えているが、不安だという。

「実は同じ町内の7歳年上の知人は、同じようにリビングウイルしていました。ところが、心臓発作で倒れて意識を失った際、動転した家族がかかりつけ医に連絡せずに救急車を呼んだ。救急病院に付き添った家族は医師に勧められるままに蘇生処置を行ったそうです。結果、その知人は病院で寝たきりとなり、3年が経過しています」(田中さん)

 都内で独り暮らしだった長田京子さん(87歳=仮名)はがんを患い、病院に通っていた。長田さんがしばらく朝の散歩の会に姿を見せなかったため、友人が自宅を訪ねたところ布団で亡くなっていた。明らかに病死で、不審なところはなかった。しかし、救急車が呼ばれ、異常死として警察に通報され、検視になったという。

■すでに「望まない死」が増加中

 25年前に全国に先駆けて24時間365日対応の在宅医療をスタート、現在、3つの在宅療養支援診療所を率いる医療法人「アスムス」理事長の太田秀樹医師が言う。

「こうした“望まない”最期を迎える人は珍しくありません。いまは8割が病院で亡くなりますが、最近は医療に支配された病院より、生活の場である自宅や介護施設で亡くなることを希望される方が増えています。しかし、仮にかかりつけ医にお願いしていても、医師が学会や所用で連絡がつかなければ結局、患者さんが思い描いた“死”を迎えることはできない場合もあります」

 そこで「アスムス」では常勤医6人のメーリングリストを作り、当番医師だけではカバーできない場合は、非番の医師がすぐに駆けつけられるよう体制を整えているという。

「残念ながら、ウチのようにバックアップ体制が充実している施設は少ないし、医師の数は足りても病院勤務が性に合わないから在宅医療を始めたという医師もいます。日本人は専門医が好きですから、『在宅医療専門医師』というと期待が高まりますが、中には適性の乏しい医師もいるのです」(太田理事長)

 では、どうすれば信頼できる在宅医と出会えるのか?

「ポイントは、①外来診療と往診をキチンとやっている②訪問看護ステーションでの評判③医師会に入っている――ということでしょうか。しっかり地域に根差した医療をやっていれば、評判は良いものです。ただ、忘れてはならないのは医師との相性です。どんなに在宅医療の技術があっても、ウマの合わない医師に最期をみとって欲しくないでしょう。医師の年齢も、自分より20歳程度若い方がいいでしょう」(太田理事長)