「多死社会」時代に死を学ぶ

「病院死」と「自然死」は何が違うのか?

一概には言えない
一概には言えない(C)日刊ゲンダイ

 6人の常勤医を抱え、3つの在宅診療所のほかに訪問介護ステーションや老人介護施設などを運営する医療法人「アスムス」理事長の太田秀樹医師が言う。

「私はこれまで800人以上をみとってきましたが、ご遺体がキレイなのは自然死の方です。病院で亡くなった人は点滴で栄養や水分を亡くなる直前まで投与されています。そのため、体全体がむくみがちです。一方、自宅や介護施設で自然死された方は亡くなる前に水分が抜けてやせ、キレイに見えます」

 医師は亡くなったかどうかを調べるために「呼吸停止」「心停止」「脳死」を確認する。

「脳死は、瞳孔が開いているか否かで判定します。病院で亡くなった人や若い方はすぐに瞳孔が開くのですが、お年寄りで自然死の場合はなかなか開きません。理由はハッキリしませんが、開くまで30分くらいかかるケースも珍しくないのです」

■若い人ほど死ぬときに痛みを感じず

 死に顔にも違いがある。病院で亡くなる方は最後まで生きるための戦いをしているせいか、苦悶の表情を浮かべる人が少なくない。ところが、自然死は眠るように亡くなるため、穏やかだという。

「よく、“人は死ぬときは猛烈に痛いのでしょうか”と聞かれます。しかし、高齢者は若い人ほど痛みを感じないと思います。実際、あるお年寄りはグループホームの人たちの前でカラオケを歌い、着席してしばらくして亡くなりました。おそらくは心筋梗塞でしょう。若い人なら猛烈な痛みを感じるはずですが、この方は痛みを訴えることはなかったそうです」

 これは特別な例ではない。ある高齢女性が、徐々に弱体化してきたので、血液検査を行った。検査を終えてひと息ついていたところ、静かに息を引き取ったという。

「その後、亡くなった方の血液検査のデータを見たのですが、何の異常もありませんでした。採血前のバイタルサインも正常です。つまり、致命的な病気はなく、単に細胞が活動を終え、臓器が機能しなくなって亡くなる人もいるのです」

 ならば、病院で亡くなるより自宅や介護施設で死ぬ方がいいのか?

「一概には言えません。それはその人の考え方次第であり、答えはありません。国家が介入して、“こちらが正解だ”というべきものでもありません。まだ50代で子供が小さければ、家族のためにも病院で死ぬまで助かるために戦うべきでしょう。しかし、『十分生きて責任を果たした』という高齢者は、自宅や介護施設での自然死の方がいいかもしれません」