以前、目を上下左右に動かすことは、目の老化防止につながり、健康にいい、とブームになったことがある。覚えている方もおられるだろう。
走るなどして筋肉を鍛えれば健康になる。それと同じでもっともな話だ。そう納得して実行した人もいるはずだ。
もともとは、ある眼科専門医以外の医師が提唱したのがキッカケだそうだが、これに異を唱える眼科専門医は多い。この目の運動によって、網膜剥離を起こすリスクがあるからだ。
首都圏のある眼科専門医も「眼球を動かす運動を毎日行っていたら、目が見えなくなった」という中年女性を診察したところ、「網膜剥離を起こしていた」という。
幸いこの女性は手術をすることで視力を回復したが、すべての患者がこうした幸運に恵まれるわけではない。
なぜ、眼球の運動をすると網膜剥離を起こすリスクが高まるのだろうか? そのメカニズムは以下のようだと言われている。
■硝子体線維の揺れが引き起こす
眼球を激しく動かすと、眼球の内部を占める硝子体が揺れる。その成分である硝子体線維が引っ張られることで、その先端につながっている網膜が引っ張られて裂け目ができる。その結果、眼球内の水分が網膜の下に浸入し、網膜が徐々に剥がれていくという。
とくに高齢者はこのリスクが高い。既に網膜に穴があくなどダメージがあるからだ。実際、70歳以上で死亡した人の目の解剖データによると、その90%以上の人に網膜に穴があったという。
そんな状態で眼球を強く動かす運動を毎日行えば、網膜剥離を起こす可能性は高くなるのは当然だともいえる。
ではなぜ、そんなリスクがあるのを知りながら一般の人に目の運動がブームになっているのを、眼科専門医は黙っているのだろうか?
「昔の医師はとくに、他の医師の治療法に異を唱えるのをよしとしません。自身の治療経験に基づく治療法を患者さんに施していて、他の医師から批判されたくないからです。多少変な治療法だと思っても、自分は批判されたくないから、人も批判しない。そんな気持ちが医師にはあるのです」(首都圏の眼科医)
いずれにせよ、目を激しく動かす運動が老化防止や健康増進に役立つどころか、網膜剥離を起こす可能性があることは覚えておいた方がいい。
あの話題の治療法 どうなった?