Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

20万人が働き盛りでがんを発症 子供への告知はどうする

2人の子供の生活のために公表した
2人の子供の生活のために公表した(C)日刊ゲンダイ

 がんは、細胞の老化という一面があります。そこに晩婚化が重なり、子育て世代のがん患者が増加。新規発症者のうち毎年20万人は働き盛りで、18歳未満の子供を持つ人は6万人近い。そこで、問題が生じます。子供への告知です。

 昨年、小林麻央さん(34)の乳がんを公表した市川海老蔵さん(39)は、こう語っていました。公表の決め手は「できる限り、子供の生活を日常化するため」と。病気を隠すことで、2人の子供が大変な思いをしていたことがうかがえます。

 3歳の息子には、「(入院中のママは)ちょっと元気なくて、病院で元気になるようにやってるから待っててね」と説明したといいます。5歳の娘は、母の病気を少し理解していたそうです。

 子供が小さいと、告知をためらうかもしれませんが、がんと診断されたらなるべく早いうちにきちんと伝えるのが基本。「きちんと」とは、子供の年齢に合わせて分かる言葉で、という意味。

 その後、海老蔵さんは自身のブログで、息子が母に「カンカンがまもってあげるからね」と語る姿に「グッときた」とつづっています。子供に病気を正確に伝えると、家族が一丸となり、子供は思いやりや忍耐を育むことができます。ある調査によると、8割が「子供に告知してよかった」と回答しています。

 24年前に子宮頚がんを発症した知人女性は、「ショックが大きい」と15歳の息子への告知をためらいましたが、息子は母の異変を微妙に感じ取っていたそうです。しばらくして、父から母の病気を聞いた息子は、「おかしいと思ったよ。どうして話してくれなかった。仲間はずれか」と怒り、家族に溝ができたといいます。その教訓から、5年後に肝臓がんを発症したときは正直に子供に伝え、家族に一体感が生まれたそうです。

 伝えるときのポイントは、「風邪など身近な病気とは違うこと」「感染しない」「子供のせいでもだれのせいでもない」ことを教えるのです。子供によっては、がんがうつると思って親に触れなくなったり、自分が悪いことをしたから親ががんになったと思い込むケースもあります。

 学校などにも伝え、子供の様子がおかしいときは連絡してもらうことも大切ですが、過剰な配慮はよくありません。子供の生活リズムは告知前と変えないこと。甘やかすのは禁物です。「子供の生活を日常化するため」という海老蔵さんの判断は意義深い。

 今、小学生から高校生まで年齢に応じた「がん教育」が進んでいます。その授業を受けた中学生は「日本癌治療学会」でこう発表しました。

「中学生は、大人が思っているほど幼くはなく、がんの授業を受けてきちんと理解できる年齢であると思うし、むしろ『がん』という病気をもっと知り、防げるのなら防ぎたいと思います」と。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。