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【遺伝性乳がん 卵巣がん症候群】複十字病院・乳腺センター(東京都清瀬市)

複十字病院・乳腺センターの武田泰隆センター長
複十字病院・乳腺センターの武田泰隆センター長(提供写真)
変異あれば乳がん6~12倍、卵巣がんで8~60倍リスクアップ

 同院は東京都が指定した「乳がん診療連携協力病院」として、乳がん診療において北多摩北部二次医療圏(5市)の中核を担っている施設。その専門性を生かして、同センターでは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の遺伝子検査を実施している。

 HBOCは遺伝性のがんのひとつで、年間約9万人が発症している乳がんの3~5%、年間約1万人が発症している卵巣がんの約10%を占めると推定されている。同センターの武田泰隆センター長が言う。

「傷ついた遺伝子を修復する働きをする『BRCA1遺伝子』と『BRCA2遺伝子』のどちらかに変異があると、HBOCになりやすい。その遺伝子の変異は親から子へ、性別に関係なく、50%の確率で受け継がれます。遺伝子検査は、この2つの遺伝子に変異があるかないかを調べます」

■男性も乳がん、前立腺がん、すい臓がんに影響

 BRCA1・2に変異があると、乳がんになるリスクは6~12倍(41~90%)、卵巣がんは8~60倍(8~62%)高くなる。また、乳がんでは「若年で発症する」「ホルモン療法や分子標的薬が効かない」「両方の乳房に発症する」「片方の乳房に複数回発症する」などの通常とは異なる特徴がある。

 男性でも乳がんになる可能性が1.2~6.8%あり、前立腺がんやすい臓がんの発症リスクも高くなるという。

「このような特徴のある乳がんを近親者が持っていれば、HBOCの可能性があります。ただし、遺伝子検査は保険適用になっていないので、全額自費負担になります。また、検査によるメリットとデメリットの比重は、本人や各家庭によって違うので、検査前に十分な遺伝カウンセリングをして実施を決定します」

■まずは病気家系図作りから

 同センターの検査までの流れはこうだ。まず「がん相談室」に申し出て、問診票に情報を記入して提出。その問診票をもとにカウンセリングの可否を検討(1次拾い上げ)。OKが出たら本人に来院してもらい、家族歴・既往歴の詳細な聞き取りと家系図を作成する(2次詳細評価)。そして後日、担当医師による「遺伝カウンセリング」を行う。

「遺伝子変異が分かったときのメリットは、まめに検査をして発症しても早期発見に役立てる。デメリットは、知ることで心配しながら生きていかなくてはいけないこと。それに、おじやおば、甥や姪などの第二度近親者も25%の遺伝共有があるので、結果が親戚まで影響する可能性があります。しかし、結果の情報は厳重に一元管理しているので、本人が話さない限り外部に漏れることはありません」

 本人が十分に理解、納得したら遺伝子検査が行われる。検査内容は採血するだけで、結果は約3週間後に出る。費用は、2次詳細評価と遺伝カウンセリングが約1時間1万円。通常の遺伝子検査は約20万円。その結果が出た近親者を調べる「シングルサイト検査」は約3万円。乳がん手術前に乳房を温存するかどうか1週間で調べる「クイック検査」は約27万円だ。

「HBOCの遺伝子検査は全国約200施設で受けられますが、まだ認知度が低い。乳がんは早期発見すれば治る病気です。上手に利用してもらいたいと思います」

■データ

 1989年に「結核研究所付属病院」を改名し、一般診療を開始する。
◆スタッフ数=常勤医師2人、非常勤医師3人
◆年間初診患者数(2015年)=640人