Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

雛形あきこさんは除菌成功のピロリ菌 胃がんとの関連は

ピロリ菌の除菌な成功した雛形あきこさん
ピロリ菌の除菌な成功した雛形あきこさん(C)日刊ゲンダイ

「無事いなくなっていました 良かったです!!」

 ブログにそう書き込んだのは、女優・雛形あきこさん(39)です。出演したテレビ番組で萎縮性胃炎とピロリ菌が見つかり、その2つが重なると胃がんの発症率が高くなることから、ピロリ菌の除菌治療をスタート。ブログの記述は、除菌成功を喜んだものです。

 今回は、胃がんとの関連性が深いピロリ菌について紹介しましょう。ピロリ菌は、6000万人が感染しているとされ、日本最大の感染症です。感染率は60歳以上で7~8割。若いほど低く、20歳以下は10~20%とされます。

 ピロリ菌に感染すると、慢性の胃炎や胃潰瘍を発症。持続的な炎症で、胃がんリスクは陰性の人に比べて最大10倍に上るのです。

 また、ストレスは、胃炎や胃潰瘍に関係するといわれます。胃潰瘍の原因といわれた時代もあり、阪神・淡路大震災の直後、胃潰瘍の患者が増加。被災や避難所生活は大きなストレスですから、古くからの推測が当てはまりそうですが、違います。

 確かに、震災後の胃潰瘍患者は83%がピロリ菌感染者でした。一方、陰性の人には、胃潰瘍がほとんど発生しませんでした。つまり、ピロリ菌感染に加えて、ストレスが重なると、胃潰瘍のリスクが高まるのです。

 塩分の多い食事や喫煙も胃がんのリスクといわれます。この2つも同様で、それぞれ単独より、ピロリ菌感染と重なる方がリスクが高い。「ピロリ菌感染+喫煙」の人は、「ピロリ菌感染ナシ+非喫煙」の人に比べて11倍も胃がんになりやすいのです。

 ピロリ菌感染は胃がん発生のベースで、胃がんの人は感染率が95%なのです。ただし、感染者が実際に胃がんを発症するのは1%以下。それでも、感染していなければ、ほとんど胃がんにならないため、除菌治療が重要視されるのです。

 ピロリ菌は、衛生状態がよくない水や食べ物から感染して、胃の粘膜にすみつきます。上下水道が整備され、井戸水を飲まなくなったことや、冷蔵庫の普及で食べ物の保存状態がよくなり、ピロリ菌の感染率が低下しました。若い人ほど感染率が低いのはそのため。

 日本より30年早く冷蔵庫が普及した米国で、胃がんの患者数は白血病やすい臓がんより少ない。日本も胃がんの患者数は低下傾向で、さらに除菌が普及すれば、胃がんは“過去のがん”になるでしょう。

 ピロリ菌がいなければほとんど胃がんにならないと書きました。そのひとつに、難治性といわれるスキルス胃がんがあります。高齢者の場合は、除菌に成功しても、過去に感染した“履歴”が消えるわけではありません。ですから、除菌後も禁煙や減塩を心がけ、胃がん検診も大切です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。