“新しくない”新薬が続々登場 古い薬が見直されているワケ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 大昔に発売された薬が装いも新たに発売されるケースが増えている。なぜ、そんなことが起きているのか? 人気医師ブログの著者で「北品川藤クリニック」(東京・品川)の石原藤樹院長に聞いた。

■60年前は“怪しい薬”だった

 ADHD(注意欠陥・多動性障害)の薬としてすでに海外で発売され、日本でも製造・販売が承認された「インチュニブ」(一般名グアンファシン)も再評価された薬のひとつだ。

「もともと脳に働きかけて交感神経を抑制することで、血管を広げて血圧を下げる降圧薬として発売されました。日本ではエスタリックという商品名で発売されてきましたが、2005年に発売中止になっています」

 今回は、脳の神経の緊張を取り去ることで、ADHDによる過剰な活動性、衝動性、攻撃的行動を抑制する薬として“復活”した。

「見直された薬の代表といえば、2010年に保険収載された『メトグルコ』でしょう。海外では1950年代、日本では1961年に発売された薬と基本的には同じ。一般名はメトホルミンで、ビグアナイド系と呼ばれる2型糖尿病薬のひとつです」

 この薬は60年以上前はある意味“怪しい薬”だった。「経験上、血糖が下がるといわれる物質を使った化合物をつくれば血糖が下がるだろう」と開発されたが、発売当初はなぜ血糖値が下がるのか、その仕組みさえまったくわかっていなかった。そのうえ、フェンホルミンという名の同じビグアナイド系の薬で、乳酸アシドーシスという重篤な副作用が多発。その結果、1970年代後半には全世界的に使用中止になってしまった。日本では使用禁止にこそならなかったものの、厳しい使用制限が課された。

「ところが、海外で1995年に『血糖を改善して副作用が少ない』との臨床試験が報告されたのをキッカケに状況は一変。翌年にはインスリンの効きを良くする作用が確認されました。さらに1998年には、糖尿病の合併症である脳卒中などを低下させることが報告されたのです。2005年の国際糖尿病学会のガイドラインでは、腎機能障害がなければ2型糖尿病の第1選択薬とするよう推薦されています」

 今では単に血糖値が下がるだけでなく、体重維持に役立つ、長期間使用した患者はその他の薬剤を使った患者よりがん罹患率やがん死亡率が低いことなどがわかっている。さらには、アンチエイジング効果に期待を寄せる研究者も増えている。

■かつて薬害を起こした薬も

 薬の見直しは、かつて薬害で消えた薬にも及んでいる。

 2008年10月に抗多発性骨髄腫薬として認可された「サリドマイド」(商品名サレドカプセル)は1957年に開発された睡眠鎮静薬。日本でも1958年から不眠症、手術前の鎮静、つわり止めなどに広く使用されていた。ところが1960年ごろ、サリドマイド内服が重度の先天異常や胎児の死亡を引き起こすことが世界各国で問題となり、販売中止となっていた。

「その後、サリドマイドに抗炎症・免疫調節作用、血管新生抑制作用などがあることが判明。多発性骨髄腫に対する有効性が認められたことから、1999年に米国で承認され、その後、欧州などでも使用されるようになっています」

 抗マラリア剤である「クロロキン」は、眼底の黄斑障害により視野が狭くなるという重篤な薬害を引き起こした。しかし、2015年からクロロキンの誘導体ヒドロキシクロロキン(プラケニル)が、皮膚及び全身性エリテマトーデス、関節リウマチの治療薬として使われている。

 なぜ、薬の見直しがこれほどまでに続いているのか? 医学の進歩でこれまでわからなかった作用機序や新たな薬理効果が明らかになってきたこともあるが、大きいのは製薬会社のフトコロ事情だ。

「いまやあらゆる薬物が調べつくされたため、新しい薬物が医薬品として世に出る確率は3万分の1以下。薬の開発には20年近い年月と数百億円の資金が必要とされていますが、いまは医薬品にならない可能性が高いのです。しかも、主力薬品の特許切れにより各製薬会社の収入が劇的に減少して、新薬開発への投資額が減らされている。これを打破するのが既存薬再開発(ドラッグリポジショニング)なのです」

 今後は、比較的安くて安全な“古くて新しい薬”が出てくるだろうが、画期的新薬というものは少なくなるのかもしれない。

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