Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

小林麻央さん告白 がんの骨転移は5割が放射線で痛み解消

がんが顎に転移したことをブログで報告
がんが顎に転移したことをブログで報告(C)日刊ゲンダイ

 がんが進行しているようです。乳がんで闘病中のフリーアナウンサー・小林麻央さん(34)が先月26日、ブログでがんが顎に転移したことを報告。今は入院先の病院を退院して自宅に戻り、点滴などによる在宅医療で治療を続けるそうです。

 麻央さんはこれまでもリンパ節や肺への転移を明かしていますが、ホルモンとの関係が深い乳がんは骨にも転移しやすいのが特徴。同じくホルモンに依存する前立腺がんもそうで、ホルモンとの関係が深いがんの転移は骨がトップです。

 多い部位としては、背骨や骨盤、肋骨、頭蓋骨、上腕骨、大腿骨など。顎への転移はレアケースですが、骨転移は進行がん全体の7割に見られる典型的な症状で、つらい痛みが特徴です。麻央さんも「『痛い、痛い』という思いで怖くなって……」とブログにつづっているように、痛みに悩む人は7~8割に上ります。

 乳がんに高頻度で生じる骨転移ですが、それを調べる検査は、骨シンチグラフィー、PET、PET―CTなどいくつかありますが被曝を伴うため、毎月のように何度も実施するのは現実的ではありません。ですから、背骨や腰、肩、股関節などの周辺に今までにないような痛みが生じたら、検査して骨転移の有無を判断し、骨転移が認められると治療に進みます。

 骨に転移したからといって、“骨のがん”ではありません。大本は乳がんですから、薬物治療を主体に乳がんとしての治療を行います。

 乳がんに用いる抗がん剤や分子標的薬、ホルモン療法などの全身治療でがんを叩く治療と並行しながら、骨転移によってもろくなった骨を強化するための治療を行います。

 麻央さんが、入院中から在宅でも継続して点滴するのは、恐らく骨を強化する薬剤でしょう。

 しかし、これらの治療でつらい痛みが十分に取れるとは限りません。背骨や大腿骨など体重を支える骨がもろくなって、骨折すると寝たきりになり、それで思うような生活ができなくなるリスクもあります。

 そこで、整形外科的な治療と同時に重要な治療が、放射線治療です。放射線には、痛みの原因物質のサイトカインを抑える働きがあり、病巣が小さくならなくても痛みが軽減されます。1回の放射線照射で、痛みが消えることが少なくないのは、そのため。最大5割は痛みが消失し、軽減も含めると、ほとんどの人に治療効果があるのです。放射線には骨折予防も期待できます。放射線治療後は7~8割に造骨化が認められるのです。

 残念ながら放射線治療は、あまり行われていないのが現実。そこで、厚労省は、がんの骨転移に効果的な放射線治療を普及させるため、第3期がん対策推進基本計画にリストアップしています。麻央さんも、放射線治療を受けられるといいのですが……。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。