「がんと仕事」厳しい両立

故・愛川欽也さんは選択 あえて無理ながん治療はしない

入院は仕事と治療の両立を阻むカベ(右上から愛川欽也氏と今井雅之氏)
入院は仕事と治療の両立を阻むカベ(右上から愛川欽也氏と今井雅之氏)/(C)日刊ゲンダイ

 男性は3人に2人、女性は2人に1人が、がんになる。毎年およそ100万人の新規患者のうち、大体30万人は15~64歳の生産年齢で発症。働き盛りで、約8割は仕事の継続を望む。目先の治療にカネがかかるし、生活費も必要だ。そう思うのは当然だろう。

 そこで大切なのが、治療と仕事の両立。たとえば、胃がんや大腸がんの早期なら日帰り手術で済む。一般に早期がんは95%が治るから、治療と仕事の両立はそれほど障害にならない。問題はがんが進行したケースだ。肺がんの場合、診断時点で進行しているケースが7割。がん検診の受診率が3~4割と低いこともあり、残念ながら全体としても進行がんで見つかる人が少なくないのが現状だ。

 では、どうするか。東大医学部付属病院放射線科准教授の中川恵一氏が言う。

「患者さん一人一人の病状や身体状況、年齢などによって対応が異なりますが、仕事や生きがいを優先する生き方を選ぶなら、無理な治療はしないという選択も十分ありえます。無理な治療とは、体への負担が重い治療のこと。一般には手術や抗がん剤。治療により得られるメリットとデメリットを比較して、そのデメリットが仕事や生きがいを阻害する要因が大きければ、無理な治療はしないという考え方です」

 たとえば、愛川欽也さん(享年80)は2015年4月、肺がんで亡くなる2カ月前まで人気番組の司会を続けたのは有名だ。当時の報道では、入院で仕事に穴をあけることを嫌って手術を拒否。末期ながら転移がんの治療にはスタンダードな抗がん剤治療も受けず、通院で受けられる重粒子線治療を選択したという。

 対照的なのが、俳優・今井雅之さん(享年54)の最期だろう。同年5月に大腸がんで亡くなる1カ月前、「船酔いに42、43度のインフルエンザが来た感じ。苦しいのは食べられない、眠れないこと」と抗がん剤治療のつらさを語っていた。

 頬は痩せこけ、声はかすれ、元気なころとは別人の姿は衝撃的。現場復帰を願っての抗がん剤治療だったが、当時は「そこまでして治療が必要なのか」という声も聞かれたが、結局、復帰はかなわなかった。

■FPも「健康維持にはお金が必要」

 もちろん、2人のがんは違うが、最期まで仕事ができたかできないかという視点でみると、それぞれの選択が大きな意味を持つ。乳がん治療を経験したファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏もこう言う。

「どこまで治療するかは本人次第ですが、相談者には仕事は辞めないように伝えます。健康を維持するには、お金が必要。そのためには、気持ちの上で生きがいとなることも大切です。そういう視点に立つと、仕事を優先して、あえて手術や抗がん剤をパスする選択をする相談者は少なくありません」

 プロジェクトリーダーとして結果を出すまでは仕事に専念したい。人前に出る仕事だから、抗がん剤の副作用で髪が抜けるのは困る……。黒田氏の元には、いろいろな相談者が訪れるが、ベースにあるのは仕事だ。

「無理な治療を避けながら、最低限痛みを取る緩和ケアを受ければ、愛川さんのような最期を迎えられます」(中川氏)

 そのときの身の振り方は、元気なうちに考えておくのが無難だ。