あの話題の治療法 どうなった?

ロシア生まれの身長を伸ばす手術「イリザロフ法」の今

 先進の医療技術というと米国や欧州のイメージが強いが、旧ソ連やロシアにも優れた医療技術がある。そのひとつがイリザロフ法だ。ロシア人医師イリザロフが半世紀前に開発した画期的な骨折治療法で、骨折が治るときのメカニズムを利用して、骨を修復したり伸ばす治療法のことで、低身長の人の背を伸ばすことにも使われている。

 そのメカニズムは次のようなものだ。骨折が治る際には、折れた骨と骨の間に「仮骨」が作られ、それがしっかりくっつくことで骨折が治っていく。

 身長を伸ばすためには、足の骨を意図的に切ることによって骨折の状態をつくり出す。そして、くっつく部分を少しずつ離していくことで理想とする長さに骨を伸ばしていく。

 このとき、骨折部分を体の外側から装具を用いて固定して一定の力を加えることで骨を思った方向に伸ばしていくという。

■5センチは伸ばせる

 イリザロフ法はロシアのオリンピック選手に対する治療で有名になり、日本には30年以上前に伝わった。首都圏の整形外科医が言う。

「もともと事故で失ったり、がんなどの手術で骨を切断したり、事故や病気で変形した骨を元通りにするために行われる手術法です。低身長症の人の治療としても行われますが、日本で美容的に“背を伸ばす手術”とうたって患者さんを集めている医療機関は限られています。この方法で安全に伸ばせる身長は5センチくらいともいわれ、それ以上伸ばすと神経麻痺が起きたり、運動機能が戻らなくなる可能性もあるといわれています」

 イリザロフ法での治療後は骨折と同じように3年くらいは運動能力が落ちるといわれる。しかも、治療中は大きな創外固定器をつけ、ワイヤが体を貫通するため、神経を傷つけたり、感染症のリスクがある。

「この治療法は熟練した腕がなければ難しい。限られた医療機関でしか行われていないのはそのためです」(前出の整形外科医)