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【甲状腺がんの手術】ニューハート・ワタナベ国際病院/内分泌・呼吸器外科(東京都杉並区)

ニューハート・ワタナベ国際病院内分泌・呼吸器外科の石川紀彦同科部長とロボット手術
ニューハート・ワタナベ国際病院内分泌・呼吸器外科の石川紀彦同科部長とロボット手術(提供写真) 
日本で唯一のロボット手術でのどに傷痕を残さない

 男性よりも女性に多い(約5倍)甲状腺がん。悪性度の高い未分化がんを除き、治療は手術が基本となる。しかし、甲状腺は気管を取り囲むように位置しているので、手術で切除すると、のどの部分に数センチ~10センチの横傷が残る。特に女性にとっては美容面での負担が大きいのが現状だ。

 ところが同科は、のどに傷を残さない甲状腺がんの手術が可能。国内で唯一、甲状腺に対するロボット手術を行っているからだ。同科の石川紀彦部長(顔写真)が言う。

「当科でも甲状腺がんの手術は、基本的には従来の首の前部を切開する手術で行っています。ロボット手術が適応になるのは、ステージⅠ期(45歳未満では遠くの臓器への転移がない)の甲状腺がん、もしくは良性か悪性か診断がつかない5センチくらいまでの腫瘍です」

■脇の下を5センチ切開するだけ

 ロボット手術とは、手術支援ロボットシステム「ダヴィンチ」を用いた内視鏡下手術のこと。従来の内視鏡下手術は「胸腔鏡下」「腹腔鏡下」などの術式で、多くの臓器の手術で行われているが、甲状腺手術には導入が遅れている。

 理由は、甲状腺が体腔内にある臓器ではないため、内視鏡などの器具を操作するスペースをつくらなくてはいけないから。

 しかも、そのスペースは狭く、鉗子の自由度が不十分。隣接する頚動静脈や反回神経などを損傷したり、リンパ節郭清も十分に行えないリスクがある。その問題点を克服するのがロボット手術だ。では、「首に傷が残らない」とはどういうことなのか。

「ロボット手術では、脇の下に縦1カ所、5センチくらい切開するだけです。そこから皮下をはがして甲状腺まで到達させます。そこを器具を使い筋肉などの組織を持ち上げ、スペースをつくります。あとはダヴィンチで手術するだけです。術後に残る傷は脇の下なので見えません」

 切開部から挿入するロボットのアームは、内視鏡と鉗子の4本。コンピューター制御された多自由度鉗子と、内視鏡画像は倍率10倍以上の3Dハイビジョンで立体視できるので、普通の内視鏡下手術ではできない繊細で高度な操作が行えるという。

■費用は通常の4倍

 手術時間は首を切開する手術の倍くらいかかり2~3時間。退院は、どちらの手術でも術後から3~4日目だ。

「他の部位の手術と大きく違うのは『術野をつくる』ところ。これがうまくいかないと脇下からの手術はできません。通常は行われていない手技でノウハウが必要なので、国内のダヴィンチを導入している施設でも甲状腺のロボット手術を実施するのは当科だけなのです」

 石川部長は、この手技を美容大国の韓国・延世大学で習得。甲状腺がんのロボット手術は、金沢大学在籍時代の2009年から始め、これまでの実績は50例弱という。

 ただし、甲状腺がんのロボット手術は保険適用ではないので、費用は自費で120万円(税別、検査費用など含む)。従来の手術は3割負担で20万~30万円(高額療養費制度も利用できる)なので、どちらを重視するかは患者によって分かれる。

「従来の手術に加え、ロボット手術というオプションもあると考えてもらえばいいでしょう。両方に対応できるので、気軽に相談してもらいたいと思っています」

■データ

 2014年開院。総長は元金沢大学心肺・総合外科教授の渡辺剛医師。
◆スタッフ数=常勤医師1人
◆年間初診患者数(2016年)=約100人
◆年間手術件数(同)=約50件(甲状腺がんの手術は10件、うちロボット手術は7件)