Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

検査編<1>検便は夏より冬に 高温で“異常あり”が“なし”に

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 乳がんで亡くなった小林麻央さんの続報が後を絶ちません。その中には誤診をめぐるものもあります。その真偽は関係者のみが知るところですが、がんかどうかの診断はとても重要なこと。今回はこれに関連して、大腸がんの検査、便潜血検査がテーマです。

 この検査は、便に血が混ざっているかどうか調べるもので、広く普及しています。大腸がん検診としては2回の便をこすり取って調べる検査が主流。企業の健康診断にも取り入れられていて、毎年の健康診断で受けている方もいるでしょう。

 便に血が混ざる原因として、大腸がんのほかに大腸粘膜の潰瘍やポリープ、炎症があります。病名としては潰瘍性大腸炎、大腸ポリープ、大腸憩室炎など。肛門からの出血、痔のケースも少なくありません。

 便潜血が「陽性」と診断されたら、これらの可能性が考えられるので、必ずしもがんに直結するわけではありませんが、より精密な検査を受ける必要があります。それが大腸内視鏡検査です。カメラで粘膜の状態をチェックして、ポリープや腫瘍など異常な病変があれば採取して組織を調べます。がんかどうか確定するのはそこです。

 では、便潜血検査の結果が「陰性」なら、問題なしといえるかというと、必ずしもそうとは限りません。実は、採取した便の保存状態によって、本来は「陽性」の検体が「陰性」と診断される恐れがあるのです。

 検査キットに書かれた説明書をよく見ると、採取した便は「冷蔵庫に保存してください」と書かれているはず。それに抵抗を感じる人がいるかもしれませんが、それで室内などに放置すると、正しく検査できないリスクが高まります。血液は高温になると、便に含まれる細菌に分解されてしまうのです。その結果、「陰性」に……。

 東京は、梅雨明け前ですが、気温は連日30度を超えています。この気温もネックです。自宅を出て病院に検査キットを提出するまでに長い時間がかかると、それだけキットの温度が上昇し、血液が分解されやすくなります。温度の上昇を防ぐには保冷剤と一緒に袋に入れて持ち運ぶといいでしょう。大腸がん検診を受けるなら、夏より冬がベターです。

 読者のみなさん、検便はいつ、どのような状態で提出していますか。もし“高温リスク”にさらされているなら、本当の意味での「陰性」ではないかもしれません。正しく検査ができていない以上、「見落とし」ともいえません。そんな厄介な目に遭わないためには、とにかく正しく検査を受けることです。

 便潜血検査のがん発見率は1回当たり45%ほどと高くありませんが、2回で70%に上昇。2年目で91%、さらに3年目には97%にアップするのですから。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。