いまさら聞けない歯科インプラント

義歯よりインプラントの方がより美味しく物が食べられる

ノンクラスプ義歯
ノンクラスプ義歯(提供写真)

「長いこと総入れ歯(義歯)だったが安定感に欠けるし話しにくい」「噛み合わせが悪く食事のときに痛む」などの理由で、歯科インプラント(以下インプラント)を希望する人も多い。ならば、歯を失ったときは最初からインプラントにした方がいいのか。自由診療歯科医で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

 歯を失ったときの治療法は3つある。「ブリッジ」「入れ歯」「インプラント」だ。ブリッジは健康な自分の両側の歯を削って支柱を作り、そこに人工歯冠をかぶせて治療する。短期間で治療が終わる良い方法だが、せっかくの天然歯を2本傷つける。支える歯に負担がかかり、残りの歯が少ない人には避けたい治療法だ。部分入れ歯は隣接する健全な歯にひっかける金属のバネが目立つし、総入れ歯は噛む力が低下する。

「その点、歯槽骨に人工歯根がしっかり結合したインプラントは、歯と同じ働きをしてくれる。患者さんの肉体的、経済的な状況が許せば、インプラントをお勧めします」

 よくインプラントを検討するときに比べられるのが義歯だが、インプラントはどんな点で義歯より優れているのか?

「ひとつ目はおいしく物が食べられる点です。義歯にすると天然歯の咀嚼力の半分以下に低下するといわれます。そのため、肉料理や硬いものが食べにくい。しかも、総入れ歯の場合は、舌だけでなく上顎にも分布する『味蕾』と呼ばれる味を感じる器官が樹脂製の床に覆われるせいで食感が失われ、食べてもおいしくない。おせんべいのかけらなど硬いものが義歯と歯肉の間に入って痛いという人が大勢おられます。インプラントは自分の歯と同様に使えるため、その点は心配いりません」

 また、義歯は長期間使うと歯槽骨がやせることもあるが、インプラントは歯槽骨に力が加わるため形が変わらない。

「一般的にブリッジの寿命は7~10年、義歯は4~5年です。一方、インプラントの10年残存率は96%という報告もあります。義歯が合わなくなる理由は、歯が失われたことで歯根による歯槽骨への刺激が失われ、歯槽骨がやせていくからです」

 インプラントは義歯と違い、外れる心配がない。

「食事中に義歯が外れて恥ずかしい思いをした人のなかには、食事やおしゃべりが楽しめない人がいます。しかし、インプラントならそれもありません」

 義歯は長く装着していると、歯槽骨が吸収されやせてしまって、老け顔になりがちだが、インプラントならそれもない。

「インプラント治療は高額で、治療期間が数カ月と長い。リスクは非常に少ないとはいえ手術中に神経や血管を傷つけたり、細菌感染などの合併症やインプラント周囲炎のように手術後に問題が起きるなどのデメリットもあります。それでも、インプラント治療は健康寿命を延長し、生活の質を高めるものだと思います」