予備群だって危ない…高血糖を放置するとがんを招く

予備群だって危ないのだ
予備群だって危ないのだ(C)日刊ゲンダイ

 血糖値が高い人はがんになりやすい。糖尿病の患者だけでなく、予備群でも、がんのリスクがアップするというから用心したい。

 糖尿病というと、網膜症、腎症、神経障害の3大合併症がクローズアップされている。失明、人工透析、下肢切断といった深刻な状態を招くリスクがあるだけに、もちろん注意が必要だ。

 しかし、糖尿病が恐ろしいのはそれだけではない。「がん」と深い関係があることも分かっている。日本糖尿病学会と日本癌学会は、糖尿病でない人のリスクを1とした場合、糖尿病患者は、すべてのがんの罹患リスクが1・2倍高くなると報告している。中でも、大腸がんは1・4倍、膵臓がんは1・85倍、肝臓がんは1・97倍もリスクがアップするという。

 それだけではない。糖尿病になる手前の段階である「予備群」でも、がんの発症リスクが高くなることが分かっている。

 糖尿病は、最近1~2カ月間の血糖値を反映するHbA1cが「6・5%以上」、空腹時血糖値が「126㎎/デシリットル以上」に当てはまると診断され、予備群はHbA1c「6・0~6・4%」、空腹時血糖値「110~125㎎/デシリットル」の人が該当する。

 国立がん研究センターの研究では、HbA1c値6・0~6・4%の予備群は、すべてのがんで1・28倍リスクが上昇すると報告されている。また、国立国際医療研究センターによると、糖尿病の手前の高インスリン血症の人は、そうでない人より2倍もがん死亡率が高いという。

■「インスリン抵抗性」と「AGE」がリスクを上げる

 なぜ高血糖の人が、がんにかかりやすくなるのかについては、はっきりしたことは分かっていないが、いくつか報告がある。糖尿病専門医で「しんクリニック院長」の辛浩基氏は言う。

「糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの働きが悪くなる病気です。インスリンは血液中のブドウ糖の代謝を促す働きがありますが、糖尿病になるとその働きが弱まる『インスリン抵抗性』という状態になります。糖の代謝で使われないインスリンが血液中にたくさん残ってしまうのです。インスリンには細胞を増殖させる働きもあり、残っているインスリンが多くなると細胞の増殖も促進されます。その分、増殖の過程で細胞の“コピーミス”が起こる可能性が高くなるのです。がん細胞は正常な細胞のコピーミスが繰り返されることで出来ていきます。インスリン抵抗性によってがんが発症するリスクが高まってしまうのです」

 また、「AGE」(終末糖化産物)が、がんの発症に関わっているとも考えられている。AGEは糖とタンパク質が加熱されて出来た物質で、老化を進める原因のひとつとされている。

「糖尿病で血液中の糖が過剰になると、糖が細胞や組織をつくっているタンパク質に結びつく『糖化反応』が起こります。この糖化反応が進んで、タンパク質が元に戻れない状態まで変性した物質がAGEです。高血糖状態が長く続くとAGEが多く発生し、体内に蓄積されていきます。AGEは細胞の酸化を促進して変異させ、がんの発症につながるのです」

 糖尿病の人はもちろん、正常よりも血糖が高い予備群も、そのまま放置してはいけない。

 血糖は一日の中で上がったり下がったりを繰り返していて、その変動幅は「グルコーススパイク」と呼ばれている。予備群でも、血糖の変動幅が大きいと細胞を傷つけ、がんの発症リスクをアップさせるのだ。

「健康診断で予備群の疑いを指摘された人は、まだ大丈夫だと安心してはいけません。HbA1cと空腹時血糖値だけでは予備群=境界型糖尿病かどうかははっきり分からないので、まずは糖尿病専門医院などでブドウ糖負荷試験を受けて状態を把握しましょう。予備群の人は食事療法をするだけでも6割以上は正常な状態に戻ります。また予備群の段階でも、糖の吸収を穏やかにするαグルコシダーゼ阻害薬を予防的に使用することが保険適用になっています」

 がんを防ぐためには、高血糖を放置してはいけないのだ。

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