胃がん予防だけにあらず ピロリ菌除菌を高齢者に勧める理由

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 老親に勧めたい治療のひとつがピロリ菌の除菌治療。よく知られている「胃がん予防のため」だけではない。

 ピロリ菌に感染していると、30人に1人が胃がんを発症する。日本ヘリコバクター学会は「検査でピロリ菌感染が分かれば、胃がん予防のために除菌治療を受けるべき」との見解を示している。

 しかし臨床の現場では、高齢者の除菌治療は見送られるケースが少なくない。南毛利内科(神奈川県・厚木)の内山順造院長(日本ヘリコバクター学会認定医)が言う。

「除菌治療は、率は低いとはいえ副作用がゼロではない。年齢によっては『今からしなくても』となるのでしょう」

 内山院長も「胃がん予防のためだけ」であれば、高齢者には積極的に勧めないこともある。

 しかし、整形外科、循環器内科、神経内科などで処方された痛み止め(NSAIDs)、血栓予防薬(ワルファリンやNOAC)を服用している場合、話は別だ。これらは消化管からの出血を起こしやすくし、時に命に関わるからだ。

「血栓予防薬であるNOACを服用している人の消化管出血と生命予後を調べた研究では、服用によって消化管出血が起こりやすく、約15%死亡率が上がるとの結果が出ています」

 そして消化管出血のリスクは、ピロリ菌によっても高まる。「ピロリ菌がいる人は1.8倍」「痛み止めを飲んでいる人は4.9倍」「ピロリ菌がいて、痛み止めを飲んでいる人は6倍」高くなる、との報告もある。

「痛み止めや血栓予防薬は必要があって服用しているもので、たいていは今後も継続しなければならない。一方、ピロリ菌は治療で除菌でき、消化管出血のリスクを下げられます」

■感染でも自覚症状はゼロ

 内山院長が上部内視鏡検査でピロリ菌陽性の患者103例の除菌前後の内視鏡所見を検討したところ、炎症に関係する細胞(好中球と単核球)が除菌前は多いが、除菌後大幅に減少。つまり、炎症がない状態になった。

 さらに、70歳以下と71歳以上に分けて調べると、減少の程度は同等。高齢者でも、除菌治療で「炎症を起こさない消化管粘膜」を得られることが分かった。一方、除菌治療の成功度は、70歳以下、71歳以上ともに同程度だった。心配される副作用についても、70歳以下、71歳以上で同程度。

「痛み止めや抗血栓薬を服用している人は、胃がん検診でピロリ菌の有無を調べてください。ピロリ菌陽性が判明したら、現在の治療を安全に継続するために、ピロリ菌の除菌治療を受けるべき」

 消化管出血は、ピロリ菌除菌治療でなくても、PPI(プロトンポンプ阻害薬)でも抑制できる。ただ、飲み忘れなどを考えると、「除菌治療の方がいい。また、除菌治療にPPI服用を加えれば、より効果的に消化管出血を抑制できる」と内山院長が言う。

「胃痛の経験がほとんどない」「症状がない」といった理由から「ピロリ菌に感染していない」と考えている人もいるだろう。ピロリ菌は、感染していても自覚症状はゼロ。潰瘍ができれば胃痛などの症状があるが、潰瘍がずっとできない人もいる。

「ピロリ菌感染の胃粘膜への影響は、内視鏡検査(胃カメラ)でしか分かりません。胃がん検診でいきなり内視鏡検査を受けることに抵抗があるなら、ABC検診という簡単な検査を先に受ける手もあります」

 ABC検診は血液検査で胃がんリスクをチェックするものだ。無料で行っている自治体もある。

関連記事