孤独感が強まると、血中の「コルチゾール」濃度が上昇することが知られています。血流や代謝を活性化させ、ストレスから身を守る、大切なホルモンです。コルチゾール濃度が上がると、血圧と血糖値が上昇し、脳が覚醒します。動物がストレス(敵や恐怖など)から逃れる方法は、大きく「闘う」か「逃げる」かのどちらか一つ。しかしどちらにしても、行動を起こす前に体の瞬発力を高めなければなりません。コルチゾールはその準備を促す役割を担っています。
野生の世界で生きていくためには必須のホルモンですが、人間の場合、孤独や不安など精神的ストレスでも濃度が上がるのです。そのため今ではむしろ、うつ病などの診断に使われているほどです。強い不安を感じているかどうかが分かりますし、濃度の時間変化を追えば、不安の持続パターンを知ることもできます。
正常人のコルチゾール濃度は、起きる3時間ほど前から上昇し始め、起床時にピーク(正常値:4・0~23・3マイクログラム/ミリリットル)を迎えます。その後は徐々に減少して、就寝時に最低になるという日周パターンを繰り返します。
ところが長く孤独感にさいなまれている人では、コルチゾール濃度が下がりにくく、高い状態が続いてしまうことが多くの研究で明らかになってきました(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2006年など)。
そうなると身体的問題が表面化してきます。まず高血圧を発症しやすくなります。コルチゾールが減らないため、血圧が下がりにくくなるのです。また高血糖の状態が続きます。
■年齢によって孤独の影響も異なる
孤独な人は、ただでさえ食生活が乱れがちで、つい食べ過ぎて肥満になりがち。そこにコルチゾールの効果が加わるため、血糖値が下がりにくく、糖尿病を発症しやすくなるといわれています。夜になってもコルチゾールが低下しないため、脳がなかなか寝付けず、睡眠の質の低下や、高齢者などでは不眠症を引き起こします。
年齢による孤独の影響の違いも分かってきました(Psychoneuroendocrinology、2010年など)。若年層では、孤独の影響がコルチゾール濃度にすぐに反映され、孤独が解消されれば、コルチゾールも低下します。
ところが年齢が上がるにつれて、孤独の影響をより長く引きずるようになるのです。前日の孤独感が、翌朝のコルチゾール濃度にまで影響することが示されています。
つまり、孤独感がコルチゾールを介して高血圧、高血糖(糖尿病)、寝不足を招き、しかも年齢が上がるほど、影響が長引く、ないしは慢性化するというわけです。
メタボリックシンドロームのことを、「死の四重奏」とも呼ぶことをご存じでしょうか。高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病の4つが重なると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが3~4割も高まるからです。孤独感は、少なくともその2つと深く関係しているわけです。つまり孤独対策は、とりわけ中高年にとって、メタボ対策と同じくらい重要な問題なのです。
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