がんと向き合い生きていく

「連携手帳」はがん患者が安心して自宅で過ごすために役立つ

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 前回は病院に入院した時のスケジュールを示したクリニカルパスについてお話ししました。今回は「外来通院中」のがん患者を対象にしたクリニカルパスを取り上げます。

 会社員のHさん(48歳・男性)は高血圧と高脂血症の持病があり、かかりつけのR内科医院に通院して内服治療を受けていました。さらに、会社の健診の胃エックス線検査で異常が見つかり、Aがん診療連携拠点病院で胃がんと診断されて、胃の3分の2を切除する手術を受けました。

 手術後は順調に経過し、入院中のクリニカルパスの予定通りに7日目には退院。その後、外来で「病理の診断結果は手術前と同様にステージⅡだった」と言われ、再発防止のために1年間、抗がん剤を内服治療することになりました。

 A拠点病院の外来での担当医は「連携手帳」というものを作ってくれたそうです。これが、外来通院中のクリニカルパスにあたります。手帳にはA拠点病院での検査・診療などの専門的医療の今後のスケジュールが示されていて、総合的な診療をしてくれるかかりつけ医と情報を共有して連携体制をつくるために利用されます。

 つまり、Hさんの場合はA拠点病院での抗がん剤内服治療、定期の検査予定などが手帳に示され、高血圧と高脂血症の診察はR内科医院で引き続き行われます。発熱や他に症状が表れた時はR内科医院で診て、必要に応じてA拠点病院に紹介されるという流れです。

 がん患者が安心して自宅で過ごせる、いわば“2人主治医制”ともいえるかもしれません。他の病気になって、別の医療機関を受診する場合でも、この連携手帳を持参すれば治療内容が正確に伝わるため、診療に役立つのです。

■問題点も指摘され見直しことになっているが…

 このような5大がん(肺がん・胃がん・肝がん・大腸がん・乳がん)の地域連携クリニカルパス(手帳)は、国のがん対策推進計画によって作られることになりました。手帳の内容は主に以下の4部から構成されています。

ア)医療連携の説明(かかりつけ医と専門病院の役割分担、緊急対応などの解説)
イ)手術などの治療内容
ウ)診療予定と簡潔な診療情報
エ)病気の解説および日常生活の注意事項

 日常の診療や投薬はかかりつけ医が行い、がん治療を行った専門病院は節目に受診する。何か心配なことがある時はまずかかりつけ医に相談し、緊急を要する場合で休日や夜間などかかりつけ医を受診できない時は治療した専門病院に連絡するといった取り決めです。

 東京都の場合は、がん拠点病院が2次医療圏に1つではなく地域が入り乱れているため、各拠点病院が手帳をバラバラに作ったのでは混乱が生じます。そのため、東京都医師会の協力を得て、各がん種ごとに専門医が集まって統一した手帳を作りました。これが「東京都医療連携手帳」(がん地域連携クリティカルパス)です。前立腺がんや緩和ケアの連携手帳も作られました。

 2010年4月からは手帳作成による診療報酬が決まり、手帳は拠点病院、認定病院などで作成され、かかりつけ医で普段の経過を書いていただくということになりました。連携手帳とお薬手帳を持っていれば安心という体制になったのです。

 ところが、拠点病院ではない地域の中小病院でもがんの手術や診療が行われているのに、そうした施設では手帳を作れないのか。他県からの患者の扱いはどうするのか。これまでの診療情報提供書はどうなるのか……といった問題もあり、現在でも十分に普及しているとはいえない状況だといえます。そして、国は今後、こうした連携手帳を見直すことになっています。

 ただでさえ、入院期間の短縮、医療費削減、在宅医療がより推進されています。そうした現状で見直しされるこの連携手帳も、あくまで患者中心の医療であってほしいと願っています。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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