Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

大阪北部地震で1700人避難 がん患者が用意すべき医療情報

持病がある人は要注意(写真は熊本地震)
持病がある人は要注意(写真は熊本地震)/(C)日刊ゲンダイ

 東日本大震災から7年、今度は震度6弱の地震が大阪を襲いました。5人が亡くなり、住宅の被害は300棟を超え、約1700人が避難生活を送っているそうです。日本が地震大国であることをあらためて思い知らされました。

 毎年のように地震が相次ぐと、地震時の対応を知っておくことは大切でしょう。誰の対応かというと、がん患者さんが取るべきものです。

 まず、3・11後の状況を振り返ってみます。当時、われわれ医師の間でも、被災地に赴いて医療支援をすべきなのか、それとも被災地の患者さんを引き受けて治療を継続すべきか。そういったことがメーリングリストで議論になりました。

 特に被害が大きかった岩手と宮城では、電話やメールすら通じず、全容把握に手間取ったこともサポートを困難にした要因でした。

 放射線治療でいうと、大ざっぱな治療停止状況がまとまったのが、地震発生から9日後。たとえば岩手医大では、「RALSという特殊な放射線装置のみ故障、通常の外部照射は可能」「復旧のメド不明」、岩手県立大船渡病院では、「機器OK、医師派遣待ち」「復旧のメド3/21(の週)――再開見込み」といった情報が次々と届いてきたのです。

 そうして浮かび上がったことが3つ。①機器の故障、水道や電気などのインフラの喪失で機器が使えない②交通手段の寸断で医師が病院に行けない③被曝医療に追われて通常の放射線治療に人が回らない――です。①と②に関連して、機器メーカーの担当者が修理しようにも、向かえないという事情もありました。

 患者さんにとっては、生活そのものの不安だけでなく、どうやって治療を継続するかということが切実な問題となったのです。そこで分かった教訓があります。医療データは、どんなことでも、医師から受け取っておくことが重要なのです。

 皆さん、血液検査を受けると、紙の検査結果をもらうはず。それと同じように、CT検査を受けたら画像データとリポートをもらうのです。放射線治療でも抗がん剤治療でも、必ず治療計画があります。治療はそれに基づいて行われますから、治療計画書を受け取っておけば、避難先の病院でそれを見せれば同じ治療が受けられるのです。

 CT検査のリポートも抗がん剤などの治療計画書も、患者さんが求めたら、病院は提供するのが当然です。患者さんにとって、医療データは自分のものですから。ところが、一部には出したがらない病院もあります。そういう病院は、その時点で替えるべきでしょう。明らかに不自然です。

 千葉大病院や静岡がんセンターでは、医療情報の引き継ぎミスや検査結果の見逃しなどで患者さんが亡くなっています。事前に医療データを患者さんが受け取っておくことは、このような悲劇を防ぐ意味もあります。ですから、いろいろな意味で患者さんが治療状況を確認する上で、その都度データを受け取ることはとても大切なのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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