起因する病気が60個も…断酒・減酒のコツを専門医に聞いた

断酒が無理ならまず「減酒」
断酒が無理ならまず「減酒」(C)日刊ゲンダイ

「酒は百薬の長」ということわざもあるように、「適量の酒は健康に良い」と長らく信じられてきた。しかし昨今、「飲酒は健康にとってデメリットである」との報告が世界の研究機関から相次いで出されている。WHO(世界保健機関)も今年9月、アルコールが原因で死亡する人が毎年世界で300万人を超えるという統計を発表し、各国に対応を促した。

 とはいえ、お酒好きの人がいきなり「断酒」するのは難しい。年末年始という一年で最も飲む機会が多くなる時期に備え、久里浜医療センターで「アルコール依存症外来」と「減酒外来」を担当する精神保健指定医の湯本洋介医師から上手に酒量を減らしていくコツを聞いた。

■認知機能が下がる可能性も

 WHOは、アルコールに起因する病気が約60個あると指摘している。その代表が脂肪肝や肝硬変だ。体内に入ったアルコールの大部分は肝臓で解毒される。習慣的な飲酒があると肝臓に負担がかかり、こうした肝臓の疾患になりやすい。

 またアルコールが粘膜を傷つけるため、食道炎や胃炎を起こすほか、胃や腸、口腔、咽頭、食道などのがんリスクを助長する。飲酒によって血圧が上がりやすいとのデータもあり、高血圧になれば脳卒中、心臓病のリスクも高まる。

 飲酒と認知症の関係も注目されている。日常的に40グラム以上のアルコールを摂取している人は、そうでない人と比べて認知機能が下がる可能性を指摘されている。

 40グラムのアルコールとは、アルコール度数が5度のビールの場合、500ミリリットルの中瓶2本分に相当する。毎日、晩酌でこれくらいの量を飲んでいるという人も少なくないだろう。

「アルコールが健康にもたらすメリットはなく、病気のリスクは飲めば飲むほど高くなります。飲まないに越したことはありません」

 ただし完全な断酒ではなく、現在の酒量を減らすだけでも体やメンタルの健康度はアップする。男性の場合、1日の平均アルコール摂取量を40グラム以下、女性の場合は20グラム以下にすれば、生活習慣病のリスクを下げることができる。

「1日の平均アルコール摂取量が60グラム以上の人、γ―GTPの数値が高かった人は、まずは減酒に取り組んでください」

■断酒が無理ならまずは「減酒」

 では、具体的にはどのようにして酒量を減らしていけばいいのか。湯本医師がすすめるのはレコーディングだ。

「自分がお酒を何本飲んでいるか、できれば何グラムなのかを飲むたびに記録すると、心理的なブレーキになり量を減らしていけます。なぜ飲むことになったのかも書いておけばたくさん飲んでしまう状況を把握でき、次から回避できるようになります」

 ほかにもお酒を薄いものに替える、週に1日でも休肝日をつくる、2次会に行かない、一口飲んだらコップをテーブルに置く、ノンアルコールの物に替えてみるなどの方法もよい。また飲む前に食べたり、飲みながら食べたりすると、アルコールが胃腸から吸収されるのを遅らせることができ飲む量自体が減る、悪酔いしにくくなるといわれている。

「適量を飲めた時、そのことをメールや電話で家族や友達に伝え、『よくやったね!』と励ましてもらうのも効果的な方法。褒められると『これからも続けていこう』とモチベーションが高まります」

 本格的に減酒に取り組みたいなら、「減酒外来」を利用するのも手だ。久里浜医療センターでは昨年4月に減酒外来を開設したところ、すでに受診者は100人を超えた。年齢層は30~50代、圧倒的に男性が多い。飲酒した後の記憶がなくなって何をしたのか覚えていない、どうやって帰宅したのかわからない、身に着けていたものをなくしてしまったなどの「ブラックアウト」の症状や、悪酔いして暴言を吐いてしまったなどのトラブルを気にしてやってくる人が目立つという。通院の目安は半年で、治療には公的医療保険が適用され、レコーディングをしたり、酒量を減らす工夫を話し合ったりする。

「この時点ではまだアルコール依存症ではありません。依存症の定義は飲み始めるとやめられない連続飲酒や、お酒をやめると手が震える、寝汗をかくなどの離脱症状があるかどうか。早めに減酒に取り組み、飲酒習慣をコントロールできるようにしてほしい」

 さて、宴席では無理にお酒をつがれることもある。その場合は、どうやって切り抜けたらよいのか。近い間柄なら「今、健康に気を使っていてお酒を減らしている」と正直に伝えてはどうか。もう少し気を使う関係なら「ドクターストップがかかっているから飲めない」と言えば、大抵の場合それ以上すすめてくることはないだろう。お酒はコミュニケーションツールのひとつだが、自分の健康は自分で守るという意識を持ち、適度な距離感を保つことが大切だ。

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