患者も知らないAPD

声が音声としては聞こえるけど何を言っているか分からない

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写真はイメージ(C)PIXTA

「小学校の頃から、自分の聞こえ方に違和感があったんです。他の人は聞き取れているのに、自分だけ何が話されているのか分かっていないことが多過ぎるなって思っていました」

 そう話すのは、真壁詩織さん(22)だ。

 大学生の彼女は、人の話が聞き取れないことに、小さい頃から悩んでいた。しかし、学校や耳鼻科で聴力検査を受けても異常は見つからず、普通に聞こえていますよ、と言われてしまう。

 それなのに、日常の中で、自分だけが先生や友人の話が聞き取れていない、ということが多過ぎることに、ずっと戸惑い続けてきた。

「学校の授業でも、先生の声が音声としては聞こえてくるんですけど、何を言っているのか分からないから、そのうち聞き取るのを諦めちゃう。それでも、小学校・中学校のときは、教科書を読んで勉強していたら、普通にテストの点数も取れたので、そんなに困らなかったんです。それが高校になると、一気に勉強が難しくなって、ついていくのが大変になった。もっと苦労したのは大学です。大学って教科書はあってないようなもので、授業で話されたことがすべて、みたいなところがあるので、急に勉強ができなくなってしまったんです」

 転機となったのは、真壁さんが大学1年のとき。それまで、耳鼻科に検査に行っても、聴力に異常はないと言われていた真壁さんだが、実際に聞き取れなくて困っていることから、自分には耳に何かの障害があるのではないかと思っていた。

 そこで、通っている大学に耳の聞こえない人への教育について勉強する聴覚言語障害教育コースがあったことから、それを受講。合わせて、耳の障害についてネットでいろいろ調べていたときに見つけたのが、APD(聴覚情報処理障害)という概念だった。

■日本での周知はこれから

 APDとはAuditory Processing Disorderの略。まずアメリカで提唱されるようになったので、日本で広まったのは、ここ3、4年のこと。先頃、日本では初めての一般向けのAPDの解説書である「聞こえているのに聞き取れないAPD(聴覚情報処理障害)がラクになる本」(あさ出版)を出版した、耳鼻咽喉科専門医で「ミルディス小児科耳鼻科」(東京・北千住)院長の平野浩二氏は次のように解説する。

「APDの定義としては、聴力検査に異常はなく、音は聞こえているのに音声として聞き取れないというもの。まだ耳鼻科の医師の間でもこのAPDを知らない人は少なくなく、『人の話が分からない』と困り果てて耳鼻科で聴力検査に行ったものの、『聴力に異常はないのだから、聞こえないというのはおかしいですよ』とか『精神科に行かれては』などと、心ない言葉をかけられた人も多いのです」と話す。

 現在、APDを診察できることを掲げている耳鼻科は数少ないため、APD外来を開設している東京都済生会中央病院では、APDの診断を求める人が数カ月待ちの状態になっているという。

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