「歩幅」が狭い人は広い人より認知症の発症リスクが3倍高い

早歩きより大股歩き
早歩きより大股歩き(C)日刊ゲンダイ

 認知症のひとつ、アルツハイマー型認知症は、興奮や攻撃性といった周辺症状を抑制する薬はあっても、「治す」薬はない。今すぐできる予防法でお勧めなのが、「歩幅を広くする」だ。

「歩幅の狭い人は、広い人に比べて認知機能が3・39倍低下しやすいことが、2012年に私たちがまとめた研究で明らかになったのです」

 こう言うのは、「たった5センチ歩幅を広げるだけで『元気に長生き』できる!」の著者でもある国立環境研究所の谷口優研究員。東京都健康長寿医療センターの研究チームが、群馬県と新潟県在住の1000人以上の歩行を測定。歩行動作のうち、歩幅を「広い」「普通」「狭い」と3つに分け、最長4年間、認知機能の低下を調べた。

 最終的に追跡できた666人のうち認知機能の低下が最も多く見られたのが歩幅の狭い群で、最も少なかったのが広い群だった。広い群のリスクを1とした場合、狭い群のリスク比は3・39倍で、普通の群は1・22倍。年齢、性別、身長、高脂血症の既往症、血液検査の数値などの要素を調整した結果で、多くの高齢者に当てはまる。

「集団の健康状態を調べた疫学調査で3倍以上のリスクの違いが出るのは珍しく、それほど歩幅が認知機能の低下に大きく影響するということ」(谷口研究員=以下同)

 続いて谷口研究員らは歩幅の加齢変化と認知症の関係について最長12年間の追跡調査を実施。対象者は延べ6509人。その結果、歩幅は3つの異なる加齢変化パターンに分類できることが分かり、最も歩幅が広く推移する群に比べて、歩幅が狭く推移する群では、認知症の発症リスクが3・34倍高かった。

「この研究で明らかになったことは、歩幅が狭い状態のまま70、80、90歳と年を重ねている人の認知症リスクが高いということです」

 これまでも歩行速度(歩幅×歩調)が落ちると認知機能低下のリスクが高くなることは指摘されていた。しかし、歩幅と歩調のどちらが関係しているかは、谷口研究員が研究を始めた当時は明らかではなかった。そこで歩幅と歩調を分けて調査。歩幅が認知機能の低下や認知症リスクに大きく関係していることは前述の通りだが、歩調と認知機能の低下には因果関係が見られなかった。

 認知症になぜ歩幅が関係しているのか?

「近年の研究結果から、歩幅が特定の脳の部位の大きさや血流の状態と関係していることが報告されています。つまり、歩幅が脳の状態を反映しているのです。このことから、歩幅を広げれば脳と足の間の神経伝達が刺激され、脳の活性化が期待できます。すでに脳の変性が始まり神経回路に障害が発生していても、歩幅を広げて新たな刺激を加えれば、新たな神経回路を構築できる可能性は十分にあります」

■認知機能を保ちたければ早歩きより大股歩き

 歩幅を広げた歩き方を続けると、脳の血流量が増えて認知症の原因物質βアミロイドの蓄積を抑制する効果も期待できる。さらに副次的な効果として、心肺機能の向上、下肢の筋力アップで転倒予防、気分の高揚などもある。

「歩幅を広くする工夫は、誰でもいつでもお金をかけずにできます。研究結果から、理想的な歩幅は65センチ以上。しかし、いきなりそれは難しい人もいるでしょう。まずは5センチ歩幅を広くする。歩幅が広ければ、歩くのはゆっくりでもいい。外出時だけ、朝の散歩だけと限定的でもOK。継続が大切です」

 老親に勧めると共に40~50代も実践すべき。認知症は“芽”が50代くらいから出始め発症に至るまで20年ほどかかるといわれているからだ。早速、きょうから始めてはどうか。

関連記事